【読了ガイド】『真ク・リトル・リトル神話体系5』│収録作品・購入方法まで紹介
はじめに
本書は、クトゥルー神話アンソロジーの第五巻で、短篇13作品を収録している。
収録作品は「深海の罠」、「大いなる帰還」、「ク・リトル・リトルの恐怖」、「妖蛆の館」、「闇に潜む顎」、「窖」、「墳墓の主」、「シャッガイ」、「黒の詩人」、「インスマスの彫像」、「盗まれた眼」、「続・深海の罠」、「呪術師の指環」となっている。
ブライアン・ラムレイを中心とした作家陣による作品群が中心を占めている。
収録作品リスト
- 「深海の罠」 B・ラムレイ
- アリスとの晩餐で牡蠣料理に激しい嫌悪感を示したハリー・ウィンスロー。その恐怖の根源は、2年前のキプロス島での恐ろしい体験にあった。
小隊司令部将校の彼のもとで働くジョブリング伍長は、熱心な貝類学者でもあったが、ある日赤子のような奇妙な姿勢で硬直状態に陥る。
復帰後も発作に見舞われた彼の手には、「ペクテン・イルラディアン」という珍しい貝の不気味なスケッチが描かれたノートがあった。
日記には新種の貝の発見、魚を捕食する様子、貝の目線になる悪夢などが記され、最後は「貝を取りに行く」で終わっていた。
- アリスとの晩餐で牡蠣料理に激しい嫌悪感を示したハリー・ウィンスロー。その恐怖の根源は、2年前のキプロス島での恐ろしい体験にあった。
- 「大いなる帰還」 B・ラムレイ
- 第二次世界大戦下のロンドンで、15歳のロバート・クルークは空襲による両親の喪失と自身の重傷で人生が激変する。
2年の入院生活で神話と伝説の世界に没頭した後、古代の謎を追い求めて世界を旅する。
旅路で指に水かきという奇妙な変化が現れ始める。
アラビアの砂漠、ムナールの地、古代都市イブの廃墟で不思議な郷愁を感じるロバート。イブの姉妹都市キンメリアが、イギリス北東部の古の呼び名だと知り故郷に帰還する。
父の遺言状を開いた瞬間、水に纏わる身体の変異と古代都市への懐かしさの謎が明かされる。
- 第二次世界大戦下のロンドンで、15歳のロバート・クルークは空襲による両親の喪失と自身の重傷で人生が激変する。
- 「ク・リトル・リトルの恐怖」 D・A・ウォルハイム
- 1939年、漁師町ホウザーで伯母を訪ねた私は、謎めいた青年エリファス・スノードグラスの存在を知る。
アフリカ系の血を引く27歳の彼は数週間部屋に閉じこもり、壁の向こうから不可解な歌声や悲鳴が漏れ聞こえていた。
私がミスカトニック大学の学生と知ると態度を一変させる。
「ネクロノミコン」について熱心に尋ね、私の無知を知ると失望して、執拗にその禁忌の書を借り出すよう懇願するようになる。
9月10日、街全体を強風とかび臭い異臭が包み込み、轟音と共にアーカムに雷が落ちた時、これが遥か深淵からの呼びかけの始まりに過ぎないことを私はまだ知らなかった。
- 1939年、漁師町ホウザーで伯母を訪ねた私は、謎めいた青年エリファス・スノードグラスの存在を知る。
- 「妖蛆の館」 G・マイヤース
- 幻夢郷のカール平原で、私は「妖蛆の館の老人」の伝説を追っていた。
真実を探るため「半白鬚」と呼ばれる世捨て人を訪ね、驚くべき物語を聞く。
五本の石柱が立つ丘の内側には悪鬼が棲むといい、好奇心に駆られた若者が訪れて一夜にして老人と化して戻ってきた。
8日後に街を悪夢が襲い、老人と化した若者は「妖蛆の館」へと再び消えた。
100年の時を経て、館の老人は饗宴を開き始める。
異常な長寿に疑念を抱きつつも人々は館を訪れ、主人の語る異次元の物語に恐怖で狂っていった。
最後の饗宴で主人は石柱が旧神の封印であり自身がその守護者だと明かすが、途中で突如沈黙を守った。
- 幻夢郷のカール平原で、私は「妖蛆の館の老人」の伝説を追っていた。
- 「闇に潜む顎」 R・E・ハワード
- 静かな郊外の町で、マージョリーの飼い猫ボゾが夜の散歩から帰らなくなった。
近頃猫の失踪事件が相次いでおり、婚約者マイケル・ストラングは猫を探すため行動を開始する。
手がかりを求めて隣家に引っ越してきたジョン・スタークを訪ねると、松葉杖をつく年配男性で不思議な威厳を漂わせていた。
気さくに談笑したが、スタークは個人的な話を一切せず、会話中に二階からネズミが走るような小さな音が聞こえていた。
一週間後に再訪すると二階からの足音が明らかに大きくなっており、町では猫だけでなく犬も次々と姿を消すようになる。
やがて3歳の子供が忽然と姿を消し、スタークの二階に隠された秘密との関連性が浮かび上がってくる。
- 静かな郊外の町で、マージョリーの飼い猫ボゾが夜の散歩から帰らなくなった。
- 「窖」 R・ジョーンズ
- 寄宿舎での事故をきっかけにカリフォルニアに嫌気が差した私は、夏休みを利用して街から遠く離れた寂れた農家に下宿した。
ある夕暮れ、沈む太陽に照らされた森の不自然な空き地を発見し、そこで古びた石造りの井戸を見つける。
透明で美しい水を飲むと微かな甘みを感じたが、なぜか味や感触を想像できなかった。
その夜、白昼夢で見知らぬ宗教の司祭となり、毛虫のような漆黒の体から無数の刃が飛び出す怪物が祭壇に現れる儀式を執行していた。
翌日井戸を観察すると、石の表面の彫刻が白昼夢の儀式の紋様と一致していた。
- 寄宿舎での事故をきっかけにカリフォルニアに嫌気が差した私は、夏休みを利用して街から遠く離れた寂れた農家に下宿した。
- 「墳墓の主」 L・カーター
- 1913年、考古学界の異端児コープランド教授は、「ポナペ経典」と「無名祭祀書」の暗号を解読した。
伝説の神官ザントゥーの墳墓の在処を突き止めたと確信して、中央アジアへの探検隊を組織する。
しかし未踏の地への旅路は苛酷を極め、疫病が隊員を蝕み、野獣の襲撃で水源を失い、現地ガイドの離反が相次ぐ中、禁忌とされるツァン高原の奥地へ足を踏み入れる。
40日目を過ぎた頃、古城が出現し、極寒と乾燥に肉体を蝕まれながらもコープランドの執念は衰えない。
ミ=ゴの襲来で最後のガイドを喪失し、孤独な探検家となった彼の前に無名の山脈が聳え立つ。
- 1913年、考古学界の異端児コープランド教授は、「ポナペ経典」と「無名祭祀書」の暗号を解読した。
- 「シャッガイ」 L・カーター
- 禁断の知識を求める魔道士エイボンは、ファロールを三度召喚してナコト写本の秘密について問い、「ピラミッドを目指せ」という謎めいた言葉だけを得る。
幽体となって異界の知識を探る旅に出たエイボンは、暗黒の惑星ユゴス、星間のクシミールを旅する。
最後にムトゥーラで、ズーリアイという種族から「シャッガイへ行くべし」という導きを受ける。
幾多の世界を経てシャッガイに辿り着いたエイボンの目に映ったのは、想像を絶する規模の巨大なピラミッド型建造物だった。
この異形の建築がファロールの示した目的地であり、そこには求め続けた秘密が眠っているのか、それとも人知を超えた恐怖が待ち受けているのか。
- 禁断の知識を求める魔道士エイボンは、ファロールを三度召喚してナコト写本の秘密について問い、「ピラミッドを目指せ」という謎めいた言葉だけを得る。
- 「黒の詩人」 R・E・ハワード&A・ダーレス
- ジェームズ・コンラッドが調査した詩人ジャスティン・ジェフリーは、名家の出でありながら家族の中で唯一の異端児だった。
成功を収めた兄弟たちとは対照的に「変人」のレッテルを貼られ、最期は精神病院で狂気に囚われたまま死を迎えた。
彼の変化には明確な起点があり、10歳の時に突如として始まった悪夢は一生涯彼を離れることなく、徐々に社会から孤立させていった。
しかし11歳になると驚くべき詩的才能を発揮し始める。
調査の結果、悪夢が始まったのは友人とはぐれた夜にやむなく廃屋で夜を明かした後からだった。
真相を確かめるため、コンラッドと「私」、画家ハンフリーの三人はジャスティンの人生を変えた廃屋へ向かう。
- ジェームズ・コンラッドが調査した詩人ジャスティン・ジェフリーは、名家の出でありながら家族の中で唯一の異端児だった。
- 「インスマスの彫像」 H・P・ラヴクラフト&A・ダーレス
- 1927年、パリからインスマスに移り住んだジェフリー・コレイは、マーシュ家の血を引きながらもその事実を隠していた。
優美な顔立ちだが、耳から垂れる奇妙な皮膚の形状が異質さを感じさせる。
政府の介入でインスマスの住民が一斉検挙され、「悪魔の岩礁」に機雷が投下される。
コレイは岩礁から打ち上げられた石で彫刻を作ったが、それはほっそりした体躯に水かきのついた足、首元に繊細な鰓が刻まれていた。
コレイは「夢の中で見たものを無意識に形にした」と語るが翌日姿を消す。
残された日記にはマーシュ家の血に纏わる呪いの真実が記されていた。
- 1927年、パリからインスマスに移り住んだジェフリー・コレイは、マーシュ家の血を引きながらもその事実を隠していた。
- 「盗まれた眼」 B・ラムレイ
- 1963年11月15日、「私」は弟ジュリアンの肉体を殺したが無実を主張する。
神秘に傾倒する繊細な弟は1962年2月2日の夜、泥水から浮かび上がる奇怪な塔の夢を見てから変わり始めた。
古い魔導書を読み漁り、クトゥルフ神話を現実だと主張するようになる。
5月に状態が悪化し、うなされる弟を起こした時に兄は初めて「それ」の声を聞いた。
翌朝姿を消した弟はオークディン療養所に送られる。
1年後に回復したという弟と再会したが、表面上は元通りでありながら、その目の奥には他者の意識が潜んでいるかのような異質な光が宿っていた。
- 1963年11月15日、「私」は弟ジュリアンの肉体を殺したが無実を主張する。
- 「続・深海の罠 」 B・ラムレイ
- ハリー・ウィンスロー大佐に宛てられた手紙は「催眠術を使う貝」の恐るべき真実を明かしていく。
数年前の船舶事故から生還したチャドウィックは、友人ビールに深海で採取された巻き貝を贈った。
死んでいると思われた貝を弱酸性の水溶液に浸すと、翌朝には中で生きた軟体生物が蠢いていた。
不安を感じたビールは返却を申し出るがチャドウィックは拒否し、「中身だけ殺せ」と冷淡に告げる。
二人が郷土資料館で発見したのは同種の貝で、その説明には「6000年前に絶滅」と記されていた。
深海から引き上げられた貝は、時間と死の概念を超越した存在への扉を開けたのかもしれない。
- ハリー・ウィンスロー大佐に宛てられた手紙は「催眠術を使う貝」の恐るべき真実を明かしていく。
- 「呪術師の指環」 D・J・ウォルシュJr.
- ニューオリンズ大学の理事会は事件を闇に葬ろうとしていたが、地方紙に私ロバート・カールストン教授の名が掲載された。
ミシシッピデルタ地帯での悲劇で六人の卒業生が死に、沼地で錯乱状態で発見された私。
毎年恒例の卒業生とのフィールドワークで、ラフォーシュの入江を選んだのは、現地の黒人たちが古来の呪術を執り行っているという噂を確かめるためだった。
ガイドのジャックが案内したのは、トムトムの音が鳴り響いた翌日に一家が忽然と姿を消した恐怖の島。
最終日の夜、近づくトムトムの音とともに私たちは意識を失い、夢で見たのは山羊の蹄と角、触手を持つ小像の傍らで執り行われる儀式だった。
- ニューオリンズ大学の理事会は事件を闇に葬ろうとしていたが、地方紙に私ロバート・カールストン教授の名が掲載された。
文庫版仕様の詳細
出版社:国書刊行会
発売日:2020/12/9
ページ数:297ページ
価格:紙版:1650円/電子版:1320円
購入ガイド
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読者レビューまとめ
良い点
- ブライアン・ラムレイのクトゥルフ神話デビュー作である「深海の罠」が収録されている
- クトゥルフ神話にムー大陸の伝承を絡めた、後にゾス神話群と呼ばれることになるシリーズの先駆けであるカーターの「墳墓の主」が読める
- 邪神を切り刻んで退治してしまうハワードが掟破りで一番面白い
- 面白くないわけじゃないぐらいの印象で読み終えることができる
気になった点
- 初期の翻訳なため読みづらいかもしれない
- ドリームランドが舞台の「妖蛆の館」や、異星が舞台の「シャッガイ」は多少の予備知識が必要
- 信奉者ではないとマンネリのような気配もあって、読んでいていまいち高揚感がない
こんな人におすすめ!
- ブライアン・ラムレイの作品に興味がある人
- ゾス神話群の先駆け作品を読みたい人
まとめ
本書は、ラムレイやカーターなど新世代作家による神話体系の拡張と実験的な作品群を集めた第五巻である。
従来の枠組みを超えた作品も含まれており、クトゥルー神話の多様性と創作の自由度を示す作品集となっている。




