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【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション4』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション4』│収録作品・購入方法まで紹介

新訳4

本作は、H・P・ラヴクラフトによるドリームランド(幻夢境)をテーマとした作品群を収録した短編集。

17編の作品が収められており、クトゥルー神話とは別にラヴクラフトが考案した「ドリーム・サイクル」に統合される作品群で構成されている。

クトゥルフ神話の代表作ともいえる「未知なるカダスを夢に求めて」をはじめ、ランドルフ・カーターを主人公とした作品が中心となっており、現代風の翻訳で読みやすさが向上している。

  • 北極星
    • 神話と現実が交錯する幻想の国ロマール。
      首都オラトーエに黄色の悪鬼イヌート族の影が忍び寄る中、語り手はまず精神体としてこの世界を俯瞰し、やがて肉体を得てロマール人の一人となる。虚弱な体質ゆえ前線での戦いは叶わないが、タプネンの物見の塔で敵の襲来を見張る役目を担う。
      天頂から見下ろす北極星ポラリスの瞬きが不思議な呪文となり、語り手を深い眠りへと誘う。
      目覚めることのできない夢か、それとも現実よりも真実に近い世界か。
      夢と現実の境界線を曖昧にし、人間の意識の本質に迫る物語。
  • 白い船
    • 灯台守バザル・エルトンは、月光が海面に描く橋を渡り、南方から来た白い帆船に乗り込む。髭を蓄えた老船長との出会いが、彼を現実世界の束縛から解き放つ。
      彼らの航海は人間の想像を超えた幻想世界へと続く。美の夢が宿るザルの地、神秘が息づくタラリオン、歓楽も届かぬズーラを経て、時間も空間も死も苦しみも存在しない究極の楽園ソナ=ニルに到着する。
      エルトンはこの至福の地で永遠の時を過ごすが、西の玄武岩の柱の彼方にあるカトゥリアの地への憧れが芽生える。
      この果てしない探求の旅の結末とは。
  • サルナスに到る運命
    • 1万年前のムナールの地で、広大な湖畔の石造都市イブには緑色の肌を持ち、膨れた目と分厚い唇、奇妙な耳を持つ無言の生物たちが住んでいた。
      やがて黒髪の羊飼いたちが到来し、新たな都市サルナスを築く。
      羊飼いたちはイブの奇妙な生物を嫌悪し、ついに都市ごとイブを滅ぼす。
      残されたのは水の蜥蜴ボクラグを象った緑色の石像のみだった。
      イブ陥落後、サルナスは繁栄を続け毎年陥落を祝う祭りを開催していた。
      1000年目の盛大な祝祭で明かされる驚くべき事実とは。異なる文明の衝突と勝者が描く歴史の残酷さを描いた物語。
  • ランドルフ・カーターの供述
    • ランドルフ・カーターが警察に語る証言は、想像を絶する恐怖の夜の記録だった。
      博学な神秘家ハーリィ・ウォーランは古い本で「なぜ特定の死体は千年もの間、腐敗せずに眠り続けるのか」という謎を発見する。
      答えを求めて二人はビッグ・サイプレス沼の奥深くにある、忘れ去られた古い墓場へ向かう。
      そこで見つけたのは地下へと続く階段だった。
      ウォーランは単身暗闇に足を踏み入れ、カーターとの繋がりは長いコードの電話のみ。
      しかしやがてその音は想像もつかない何かに取って代わられる。
      地下の闇に潜む千年の秘密とウォーランの運命とは。
  • 恐ろしい老人
    • ニューイングランドの町キングスポートに住む「恐ろしい老人」の財宝を狙い、三人の泥棒アンジェロ・リッチ、ジョー・チャネク、マヌエル・シルヴァが強盗を計画する。
      元船長の老人が隠し持つスペインの古い金貨と銀貨が目当てだった。
      老人には小瓶に吊るされた鉛の玉に語りかけるという奇怪な習慣を持っていた。
      計画実行の夜、リッチとシルヴァが老人の家に忍び込むが、そこで彼らを待ち受けていたのは想像を絶する光景だった。
      泥棒たちが直面する予期せぬ結末とは何か。
  • 夢見人へ
    • ラヴクラフトのメモのような作品。
  • ウルタールの猫
    • ウルタールの村には「何人たりとも猫を殺してはならない」という奇妙な法律があった。この掟の背後には戦慄すべき真実が隠されていた。
      村には猫を憎悪する夫婦が住んでおり、その残虐な行為が予想外の結果をもたらすことになる。
      ある日、黒髪黒瞳の漂泊の民の隊商が村を訪れる。幼い少年メネスは愛らしい黒い仔猫を連れていたが、その仔猫が突如姿を消してしまう。
      悲嘆に暮れるメネスは村人には理解できない不思議な言葉で祈りを唱える。その夜、村中の猫が忽然と姿を消した。
      人間の残虐性に対する自然界からの報復とは。
  • セレファイス
    • 退屈な現実に絶望した男クラネスは、麻薬と夢の中に魂の安息地を求めていた。彼が見出した奇跡の都セレファイスは、オオス=ナルガイの谷に佇み、幼き日の記憶に深く刻まれていた。
      温かな海風に包まれた幼年期の夢は鮮やかだったが、目覚めると冷たいロンドンの屋根裏部屋だった。
      以来、クラネスの夢は様々な不思議な土地を彷徨ったが、最も望んだセレファイスだけは現れない。
      麻薬は彼の生活を蝕み、財産を使い果たしアパートからも追い出される。
      希望を失い通りをさまよう彼の前に突如現れたものとは。
      失われた理想郷への憧れを描いた物語。
  • 忘却より
    • 現実世界に失望し日々の憂鬱に押しつぶされそうな一人の男は、夜ごと夢の中で異国の世界を彷徨い歩く。
      そこには現実では味わえない驚異と美に満ちた光景が広がっていた。
      目覚めた後の灰色の日常に耐えかねた彼は、より鮮明な幻視を求めて麻薬に手を染める。
      夢の中で神秘の都「ザカリオン」にたどり着いた彼は、古の賢者が残したパピルスを発見する。
      そこには高い障壁に嵌められた「青銅の小門」のことが記されていた。
      さらに大量の麻薬を摂取し、現実と幻想の境界が曖昧になる中、ついに彼は門の前に立つ。
  • イラノンの探求
    • 遥か彼方の故郷アイラを求めて旅を続ける若き歌うたいイラノン。
      自らをアイラの王子と称する彼は、美を忘れた冷たい御影石の都テロスで靴直しとして生きることを強いられる。そこで美と歌に満ちた遠い土地を夢見る少年ロムノドと出会う。
      二人はリュートと舞踏の都オオナイへ向かう。
      そこはアイラではなかったが、イラノンの歌と竪琴の才は称賛を浴び、ロムノドは酒の誘惑に溺れていく。
      時は流れるがイラノンの姿は少しも衰えず、アイラへの夢は色褪せない。
      理想の地を求める魂の旅路で、永遠の若さを持つイラノンの正体と真のアイラとは。
  • 蕃神
    • ハデク=クラの山は、かつて大地の神々が愛した聖なる地だった。しかし神々は人の目の届かぬ凍てつく荒野カダスへと姿を消した。その理由は一人の人間の大胆不敵な野望にあった。
      ウルタールの賢者バルザイは、古の知識『フサンの謎の七書』と『ナコト写本』から神々の秘密を学び、神々の姿を自らの目で見るという禁忌に触れる決意を固める。
      僧侶アタルを伴い険しいハデク=クラに登頂し、雲間の山頂で神々の声を聞く。
      興奮したバルザイはアタルを置き去りに先へ進むが、頂上で目にした光景とは。
      神々の怒りを買った彼の運命は。
  • アザトース
    • ラヴクラフトのメモのような作品。
  • 名状しがたいもの
    • アーカムの古びた墓地で、カーターと親友ジョウエル・マントンは文学の本質を巡り議論を交わしていた。
      カーターの書く怪奇小説について、マントンは「リアリズムに欠け、人生とは無縁だ」と主張する。特に「名状しがたい」存在を描くカーターの筆致に強い不信感を抱いていた。
      しかしカーターの目には哀れみの色が浮かぶ。「友よ、君はまだ真実を知らない」と言わんばかりに、彼はある屋敷に存在する、決して開かない扉の部屋について語り始める。
      カーターの言葉一つ一つがマントンの現実認識を揺るがしていく。
      開かないはずの扉の向こうに潜む真実とは。
  • 銀の鍵
    • ランドルフ・カーターは夢の世界への扉を開く鍵を失い、現実世界に折り合いをつけようとするが、その世界は退屈で美学に反するものでしかなかった。
      屋根裏部屋で一本の銀の鍵を発見した彼は、それが夢の扉を開く鍵かもしれないと感じる。
      衝動に駆られ車を走らせ、幼少期を過ごしたニューイングランドの田舎へ向かう。
      そこで説明のつかない魔術的な現象に遭遇し、気がつけば9歳の少年の姿に戻っていた。
      さらに他界したはずの使用人の声が聞こえる。
      時空を超えた体験の中、カーターは自身の存在の本質に迫る旅へと踏み出す。
  • 霧の高みの奇妙な家
    • キングスポート北方の岩山頂上に佇む謎めいた古家。町の人々も近づかないその地に、哲学者トマス・オウルニイが挑む。
      常ならぬものを求める学者である彼の好奇心は、人知れず暮らす家の主へと向けられた。険しい崖を這い上がり到達した先で待っていたのは、扉なき家の壁面だった。
      十七世紀様式の二つの窓のみが内なる世界を覗かせ、扉は絶壁の向こう側にある。
      窓に浮かぶ黒髭の顔が柔らかな声で誘う時、オウルニイが踏み込もうとする扉の向こうには、いかなる真実が潜んでいるのか。
  • 未知なるカダスを夢に求めて
    • 幻夢の探索者ランドルフ・カーターは、かつて夢に見た神秘の「夕映の都」を求め幻夢境の果てなき迷宮へ向かう。
      ズーグ族との出会いから始まり、ウルタールの大神官アタルの知恵、オリアブ島のングラネク山での冒険が続く。
      月の蟇じみた怪物に捕らわれるも猫たちの助けで脱出。かつて人間だった食屍鬼ピックマンと再会し、彼らの力でガグとガーストの王国を越える。
      セレファイスのクラネス王やインガノクの商人と出会い、食屍鬼と夜鬼の軍勢を率いて大いなるものどもの城に到達。
      そこで蕃神の使者ナイアルラトホテップが明かす「夕映の都」の真実とは。
  • 銀の鍵の門を抜けて
    • ニューオリンズでランドルフ・カーターの遺産処分を巡り、エティエンヌ=ローラン・ド・マリニー、弁護士アスピンウォール、謎のチャンドラプトゥラ師が集会を開く。
      チャンドラプトゥラ師は「カーターは死んでいない」と主張する。
      少年時代に戻ったカーターは「導くもの」ウムル・アト=タウィルに導かれ、時空を超越した世界へ足を踏み入れる。
      「古のものども」の玉座で明かされる衝撃の事実は、全ての存在には「原型」があり、個人はその一局面に過ぎないということだった。
      カーターは自身も「窮極の原型」の一部と悟り、意識は見知らぬ生命体へ転移する。
      存在の本質を探求する壮大な冒険。

出版社:青心社

発売日:2019/9/15

ページ数:480ページ

価格:紙版:1650円/電子版:1634円

良い点

  • 詳細な注が読み応えがあり、ドリームランドの地図がカラー口絵で収録されている点が有り難い
  • 国書刊行会の定本ラヴクラフト全集でしか読めなかった「幻影の王」が収録されている
  • この四巻だけでも一つのラヴクラフト全集になっているほどの充実した内容
  • ホラーよりもランドルフ・カーターが主役のファンタジー小説という印象で、1920年代の異世界転移ファンタジーとして楽しめる
  • ドリーム・サイクルをざっくり掴むのに適した構成
  • 全体的にファンタジー色が強く、異世界転生モノの源流の一つとして位置づけられる
  • 中学生・高校生でも抵抗感少なく読める内容
  • 現実とうまく折り合えない夢見人(ドリーマー)のキャラクター設定が魅力的

気になった点

  • クトゥルー神話を期待する読者には毛色が異なると感じられる可能性
  • ホラー要素を求める読者には物足りない場合がある
  • 現代を舞台にした作品を想像していた読者には予想と異なる内容

こんな人におすすめ

  • ドリームランド(幻夢境)の世界観に興味がある人
  • ランドルフ・カーターの物語を読みたい人
  • ファンタジー色の強いラヴクラフト作品を求める人
  • 異世界転移・転生ファンタジーの源流に興味がある人
  • 1920年代の幻想文学を楽しみたい人
  • 中高生でも読みやすいラヴクラフト作品を探している人
  • ドリーム・サイクルを体系的に理解したい人

本巻は、ラヴクラフトが創造したもう一つの重要な世界観であるドリームランドを体系的に紹介する作品集となっている。

クトゥルー神話のホラー要素とは対照的に、ファンタジー色の強い幻想的な世界観が展開され、異世界転移ファンタジーの先駆的作品群として位置づけられる。

「未知なるカダスを夢に求めて」という代表作を含む構成により、ラヴクラフトの多面的な創作能力を示している。ドリーム・サイクルという独特な世界観を理解するための重要な一冊といえる。