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【読了ガイド】『ラヴクラフト全集6』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『ラヴクラフト全集6』│収録作品・購入方法まで紹介

全集6

本書は、H.P.ラヴクラフト作品のみを収録した全集の第6巻である。

収録作品は「白い帆船」、「ウルタールの猫」、「蕃神」、「セレファイス」、「ランドルフ・カーターの陳述」、「名状しがたいもの」、「銀の鍵」、「銀の鍵の門を超えて」、「未知なるカダスを夢に求めて」の9編となっている。

ドリームランドやランドルフ・カーターが主人公の作品が多く収録されており、巻の大部分を占める「未知なるカダスを夢に求めて」を中心に、人間が眠っているときにだけ訪れることのできる夢の世界での冒険が描かれている。

  • 白い帆船
    • 灯台守バザル・エルトンは、月光が海面に描く橋を渡り、南方から来た白い帆船に乗り込む。髭を蓄えた老船長との出会いが、彼を現実世界の束縛から解き放つ。
      彼らの航海は人間の想像を超えた幻想世界へと続く。美の夢が宿るザルの地、神秘が息づくタラリオン、歓楽も届かぬズーラを経て、時間も空間も死も苦しみも存在しない究極の楽園ソナ=ニルに到着する。
      エルトンはこの至福の地で永遠の時を過ごすが、西の玄武岩の柱の彼方にあるカトゥリアの地への憧れが芽生える。
      この果てしない探求の旅の結末とは。
  • ウルタールの猫
    • ウルタールの村には「何人たりとも猫を殺してはならない」という奇妙な法律があった。この掟の背後には戦慄すべき真実が隠されていた。
      村には猫を憎悪する夫婦が住んでおり、その残虐な行為が予想外の結果をもたらすことになる。
      ある日、黒髪黒瞳の漂泊の民の隊商が村を訪れる。幼い少年メネスは愛らしい黒い仔猫を連れていたが、その仔猫が突如姿を消してしまう。
      悲嘆に暮れるメネスは村人には理解できない不思議な言葉で祈りを唱える。その夜、村中の猫が忽然と姿を消した。
      人間の残虐性に対する自然界からの報復とは。
  • 蕃神
    • ハデク=クラの山は、かつて大地の神々が愛した聖なる地だった。しかし神々は人の目の届かぬ凍てつく荒野カダスへと姿を消した。その理由は一人の人間の大胆不敵な野望にあった。
      ウルタールの賢者バルザイは、古の知識『フサンの謎の七書』と『ナコト写本』から神々の秘密を学び、神々の姿を自らの目で見るという禁忌に触れる決意を固める。
      僧侶アタルを伴い険しいハデク=クラに登頂し、雲間の山頂で神々の声を聞く。
      興奮したバルザイはアタルを置き去りに先へ進むが、頂上で目にした光景とは。
      神々の怒りを買った彼の運命は。
  • セレファイス
    • 退屈な現実に絶望した男クラネスは、麻薬と夢の中に魂の安息地を求めていた。彼が見出した奇跡の都セレファイスは、オオス=ナルガイの谷に佇み、幼き日の記憶に深く刻まれていた。
      温かな海風に包まれた幼年期の夢は鮮やかだったが、目覚めると冷たいロンドンの屋根裏部屋だった。
      以来、クラネスの夢は様々な不思議な土地を彷徨ったが、最も望んだセレファイスだけは現れない。
      麻薬は彼の生活を蝕み、財産を使い果たしアパートからも追い出される。
      希望を失い通りをさまよう彼の前に突如現れたものとは。
      失われた理想郷への憧れを描いた物語。
  • ランドルフ・カーターの陳述
    • ランドルフ・カーターが警察に語る証言は、想像を絶する恐怖の夜の記録だった。
      博学な神秘家ハーリィ・ウォーランは古い本で「なぜ特定の死体は千年もの間、腐敗せずに眠り続けるのか」という謎を発見する。
      答えを求めて二人はビッグ・サイプレス沼の奥深くにある、忘れ去られた古い墓場へ向かう。
      そこで見つけたのは地下へと続く階段だった。
      ウォーランは単身暗闇に足を踏み入れ、カーターとの繋がりは長いコードの電話のみ。
      しかしやがてその音は想像もつかない何かに取って代わられる。
      地下の闇に潜む千年の秘密とウォーランの運命とは。
  • 名状しがたいもの
    • アーカムの古びた墓地で、カーターと親友ジョウエル・マントンは文学の本質を巡り議論を交わしていた。
      カーターの書く怪奇小説について、マントンは「リアリズムに欠け、人生とは無縁だ」と主張する。特に「名状しがたい」存在を描くカーターの筆致に強い不信感を抱いていた。
      しかしカーターの目には哀れみの色が浮かぶ。「友よ、君はまだ真実を知らない」と言わんばかりに、彼はある屋敷に存在する、決して開かない扉の部屋について語り始める。
      カーターの言葉一つ一つがマントンの現実認識を揺るがしていく。
      開かないはずの扉の向こうに潜む真実とは。
  • 銀の鍵
    • ランドルフ・カーターは夢の世界への扉を開く鍵を失い、現実世界に折り合いをつけようとするが、その世界は退屈で美学に反するものでしかなかった。
      屋根裏部屋で一本の銀の鍵を発見した彼は、それが夢の扉を開く鍵かもしれないと感じる。
      衝動に駆られ車を走らせ、幼少期を過ごしたニューイングランドの田舎へ向かう。
      そこで説明のつかない魔術的な現象に遭遇し、気がつけば9歳の少年の姿に戻っていた。
      さらに他界したはずの使用人の声が聞こえる。
      時空を超えた体験の中、カーターは自身の存在の本質に迫る旅へと踏み出す。
  • 銀の鍵の門を超えて
    • ニューオリンズでランドルフ・カーターの遺産処分を巡り、エティエンヌ=ローラン・ド・マリニー、弁護士アスピンウォール、謎のチャンドラプトゥラ師が集会を開く。
      チャンドラプトゥラ師は「カーターは死んでいない」と主張する。
      少年時代に戻ったカーターは「導くもの」ウムル・アト=タウィルに導かれ、時空を超越した世界へ足を踏み入れる。
      「古のものども」の玉座で明かされる衝撃の事実は、全ての存在には「原型」があり、個人はその一局面に過ぎないということだった。
      カーターは自身も「窮極の原型」の一部と悟り、意識は見知らぬ生命体へ転移する。
      存在の本質を探求する壮大な冒険。
  • 未知なるカダスを夢に求めて
    • 幻夢の探索者ランドルフ・カーターは、かつて夢に見た神秘の「夕映の都」を求め幻夢境の果てなき迷宮へ向かう。
      ズーグ族との出会いから始まり、ウルタールの大神官アタルの知恵、オリアブ島のングラネク山での冒険が続く。
      月の蟇じみた怪物に捕らわれるも猫たちの助けで脱出。かつて人間だった食屍鬼ピックマンと再会し、彼らの力でガグとガーストの王国を越える。
      セレファイスのクラネス王やインガノクの商人と出会い、食屍鬼と夜鬼の軍勢を率いて大いなるものどもの城に到達。
      そこで蕃神の使者ナイアルラトホテップが明かす「夕映の都」の真実とは。

出版社:東京創元社

発売日:1989/11/24

ページ数:358ページ

価格:紙版:924円/電子版:541円

良い点

  • 「未知なるカダスを夢に求めて」は、クトゥルーの世界観が暴れまくる秀作で、ペルシア神秘主義詩やボルヘス作品に類似するオマージュが発見できる
  • Liarsoft作品(セレナリア、インガノック、ソナーニル)をプレイした人には馴染みのある要素が多数登場
  • 掌編が多くてすごく読みやすい構成になっている
  • 「ウルタールの猫」は猫好きにはたまらない作品で、猫自体がランドルフの味方として描かれている
  • 「ランドルフ・カーターの陳述」はホラーとして傑作で、ラストの一文が非常に怖い
  • ナイアルラトホテップに騙されてから、ノーデンスに救われるまでの宇宙的描写が圧倒的
  • 求め続けた夢の場所が、幼き日の故郷の風景という展開が真理を突いている
  • ラヴクラフト世界を語る上で重要な部分でファンなら必読

気になった点

  • 会話文などの起伏が無いに等しく、想像力で補わなければならないのがつらい
  • 淡々とした文体で翻訳の限界を感じる部分がある
  • 恐怖小説というよりは冒険譚のような要素が強く、従来のホラーを期待する読者には物足りない可能性

こんな人におすすめ

  • ドリームランドものに興味がある人
  • 猫好きで「ウルタールの猫」のような作品を楽しめる人
  • ダークファンタジー的要素を求める人
  • ラヴクラフトの夢世界の冒険譚を読みたい人

本書は、従来のホラー路線とは趣を異にする夢世界での冒険を描いた重要な巻である。

ラヴクラフト独自のドリームランド世界観により、恐怖小説の枠を超えた幻想文学としての価値を示し、後の創作作品にも大きな影響を与えた記念すべき一冊となっている。

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