【読了ガイド】『グラーキの黙示Ⅰ』│収録作品・購入方法まで紹介
はじめに
本作は、ラムジー・キャンベルによる初期クトゥルフ神話作品集『Cold Print』の、完全邦訳版となる短編集。
キャンベルは、クトゥルフ神話の啓蒙に努めたダーレスに才能を見出された作家で、ダーレスの指導により生まれ育ったイギリスに架空の都市を作り上げ、そこを舞台とした神話作品を創作した。
本書には内11篇が収録されており、各作品の邦訳はこれまでも個別に出版されていたが、完全邦訳は初めての試みとなっている。
収録作品リスト
- 「ハイ・ストリートの協会」
- 「城の部屋」
- ブリテン島の地下深くに封じられていた魔物バイアティスは、ローマ軍勢の侵攻時に封印が解かれ、「バークリイの蟇」として恐れられるようになった。
18世紀、魔術師ギルバート・モーリイ卿がバイアティスを地上へ引きずり出すが、やがて彼の姿は消えバイアティスは孤立する。
20世紀、好奇心旺盛な青年パリーが大英博物館の古文書でセヴァン谷の伝説の魔物「バイアティス」の記述を発見し魅入られる。
友人スコットの懸念をよそに、パリーはセヴァンフォードの古城跡へ足を踏み入れ、荒廃した城壁の影で地下室への階段を発見する。
封印された恐怖と人間の好奇心が交錯する。
- ブリテン島の地下深くに封じられていた魔物バイアティスは、ローマ軍勢の侵攻時に封印が解かれ、「バークリイの蟇」として恐れられるようになった。
- 「橋の恐怖」
- 「昆虫族、シャッガイより来たる」
- 自害を決意した作家ロナルド・シアの物語は、読書家の中年教師との出会いから始まる。
教師が語ったのは「ゴーツウッド」という森の不可解な歴史だった。
森の中心の空き地にはかつて大地母神を祀る神殿があったが、1600年代の隕石落下後は魔女たちの集会所となり、彼女たちは隕石そのものを崇拝していた。
賭けで森に入った若者が狂気に取り憑かれて帰還し、「木のようで木ではないもの」に追跡され、円錐塔から現れた何かから生物の歴史を教えられたと証言する。
何時間も話を聞いたシアは「明日そこに行く」と宣言し、翌日の昼、謎めいた森へと足を踏み入れる。
- 自害を決意した作家ロナルド・シアの物語は、読書家の中年教師との出会いから始まる。
- 「ヴェールを剥ぎ取るもの」
- 都市の喧騒から離れた大学で密かに活動していた黒魔術サークルが突如解体される。
メンバーは追放されたが、ヘンリー・フィッシャーだけが組織の核心的な秘密資料を持ち出すことに成功し、その力を解放する共犯者を探し始める。
雨の夜、タクシーに相乗りした見知らぬ男ケヴィン・ギルソンに可能性を直感し、自宅へ誘う。
フィッシャーのアパートで録音機が回り、人知を超えた存在「ダオロス」と、現実世界を覆う薄いヴェールの向こうにある真の世界について語られる。
好奇心を宿すギルソンは禁断の儀式への参加を決意する。
二人の手で始まる不穏な召喚儀式の結末とは。
- 都市の喧騒から離れた大学で密かに活動していた黒魔術サークルが突如解体される。
- 「湖の住人」
- 英国ブリチェスター郊外の伝説の隕石湖では、人知を超えた存在が棲むという噂が幾世紀にもわたって囁かれてきた。
1790年に神秘的な神グラーキを崇めるカルトがこの地に足跡を残すが、1870年頃を最後に姿を消した。
1960年、画家カートライトがこの忌まわしき地に移り住むが、やがて悪夢に襲われ前住人の不可解な失踪に不安を覚える。
隣家で発見された手書きノート『グラーキの黙示録』が、神グラーキ、カルト、生ける屍となった信者たちの想像を絶する世界を広げる。
友人アランとともに運命の書「黙示録」を手に入れたカートライトを待つのは悪夢の幕開けだった。
- 英国ブリチェスター郊外の伝説の隕石湖では、人知を超えた存在が棲むという噂が幾世紀にもわたって囁かれてきた。
- 「奏音領域」
- 1958年夏、大学生の「私」とフランク・ナトール、トニー・ロールズの三人はセヴァンフォードの居酒屋を目指すが、運悪く入ることができなかった。
行き場を失った3人は歩き回り、新聞販売店で帰り道を尋ねる。
店主は「この道しか通ってはならない。道行く人に声をかけてはならない」と奇妙な警告を残した。
道に迷った三人は地面を掘るような大きな音を聞き、一軒の小屋を発見する。
中に入ると埃の積もった床には足跡がなく、魔導書が並ぶ本棚と1930年12月8日で止まった日記があった。
奥の部屋には大きなスクリーンと異様な装置があり、触れると不協和音が響く。
三十年前から時が止まった小屋と消えた教授の謎が大学生たちを取り囲む。
- 1958年夏、大学生の「私」とフランク・ナトール、トニー・ロールズの三人はセヴァンフォードの居酒屋を目指すが、運悪く入ることができなかった。
- 「魔女の帰還」
- 「ユゴスの坑」
- 1899年ブリチェスター生まれのエドワード・テイラーは、人とは違う視点で世界を見る少年だった。
1918年の大学入学後、魔術を実践するカルトの中心人物となり、画家ネヴィルやオカルティストのヘンリーも輪に加わった。
教団の存在が明るみに出て仲間が放校処分を受けても、親の遺産を持つテイラーは魔術研究に没頭し続けた。
ある無名の書から、遠い星ユゴスの鉱石「トゥク=ル」を使えば脳を別の体に移して不老不死が得られると知る。
『グラーキの目次録』を受け取ったテイラーはブリチェスターの前哨地へ向かい、懐中電灯の光が届かない不思議な壁を、ユゴスへの入口と確信して闇の中へ踏み込んだ。
- 1899年ブリチェスター生まれのエドワード・テイラーは、人とは違う視点で世界を見る少年だった。
- 「スタンリー・ブルックの遺志」
- 「ムーン=レンズ」
文庫版仕様の詳細
出版社:サウザンブックス社
発売日:2022/2/17
ページ数:384ページ
価格:紙版:2420円/電子版:1760円
購入ガイド
読者レビューまとめ
良い点
- イギリスを舞台としたことでキャンベルによって新しい世界観の創造に成功している
- 「ユゴスの坑」「ムーン=レンズ」「湖の住人」などの面白い作品が収録されている
- 「昆虫族、シャッガイより来たる」の細かい描写が印象的で読み応えがある
- 「スタンリー・ブルックの遺志」は明確にオチがついている作品として評価される
- 基本的な流れ(禁足地への立ち入り、禁忌への接触)がクラシカルなクトゥルーものの良さを表現
- 鬱々とした雰囲気がクトゥルー神話らしい魅力を醸し出している
- 各話毎に用語解説が付いており、TRPG創作に役立つ内容
- キャンベルによる「ラヴクラフト私論」「未知なるものを追い求めて」などの興味深いエッセイも収録
- 神話生物の表現が明確になった部分があり、資料的価値も高い
気になった点
- 一見ラヴクラフトの模倣という印象を受ける場合がある
- 作品の出来にバラツキがあるという指摘
- わりとあっさりめの文体で、訳による影響もある可能性
こんな人におすすめ!
- イギリスを舞台としたクトゥルー神話作品に興味がある人
- ラムジー・キャンベルの初期作品を読みたい人
- クラシカルなクトゥルー作品の雰囲気を求める人
- TRPG創作の参考資料を求める人
- 神話生物の詳細な描写を楽しみたい人
- 禁足地や禁忌をテーマとした作品が好きな人
- 作家のエッセイや自作品への考察に興味がある人
まとめ
本書は、キャンベルによるイギリス版クトゥルー神話の世界観を、初めて完全な形で体験できる貴重な作品集となっている。
ラヴクラフトの影響を受けながらも、舞台をイギリスに移すことで独自の神話世界の構築に成功している。
クラシカルなクトゥルー作品の魅力である鬱々とした雰囲気と禁忌への恐怖を、現代に伝える重要な架け橋的作品として位置づけられる。




