本作は14,550語の中編小説で、1932年10月から1933年4月にかけて『E・ホフマン・プライス』とラヴクラフトの共作として執筆された。初出はWT(1934年7月号)であり、その後、単行本初収録はOとなった。さらに、校訂版はMMに、詳註版はDWHに収められている。
この物語の起源は、プライスが執筆した「幻影の王」という草稿にある。プライスは「銀の鍵」に強く感銘を受け、1932年6月にニューオーリンズでラヴクラフトと面会した際、ランドルフ・カーターの続編を提案した。
プライスの草稿「幻影の王」では、カーターが銀の鍵を見つけた後の冒険が描かれている。物語の中で、カーターは不思議な洞窟で謎の案内者と出会い、異次元世界へと導かれる。そこで彼は宇宙の本質や時間の概念、さらには自身の存在の多元性について学んでいく。
ラヴクラフトは草稿を読んだ後、大幅な改訂が必要だと判断した。主な修正点としては、文体の統一、「銀の鍵」との整合性の確保、現実世界から超越世界への移行描写の精緻化、そして教条的な対話の改善などが挙げられた。
完成版では、プライスの原案の骨子は保持されつつも、ラヴクラフトによる大幅な加筆修正が施された。ただし、『ネクロノミコン』からの引用部分は主にプライスの草稿が使用されている点が特徴的である。
出版の過程では紆余曲折があった。当初、WTの編集者『ファーンズワース・ライト』は作品の壮大さを称賛しつつも、読者の理解度を懸念して掲載を躊躇した。しかし後に考えを改め、最終的に掲載を承諾するに至った。
本作の掲載後、一部の読者から批判的な反応があり、特に若手作家『ヘンリー・カットナー』がWTの投書欄で批判的な意見を表明した。このことは、本作品の斬新さと同時に、その難解さを示唆しているといえるだろう。
- ランドルフ・カーター
- ウォード・フィリップス
- アーネスト・B・アスピンウォール
- エティエンヌ゠ローラン・ド・マリニー
- スワーミー・チャンドラプトゥラ…ターバン
- タウィル・アト=ウルム
- ズカウバ…カーターと融合した人
【舞台】
- 1932年 ニューオリンズにあるド・マリニーの自宅
- 惑星ヤディス
ニューオリンズ、ランドルフ・カーターの遺産処分を巡る奇妙な集会。エティエンヌ=ローラン・ド・マリニー、弁護士アーニスト・B・アスピンウォール、そして謎に包まれたチャンドラプトゥラ師。その場で、チャンドラプトゥラ師が驚くべき主張を展開する。
カーターは死んでいない—。そして彼は、人知を超えた体験をしたという。
少年時代に戻ったカーターは、「導くもの」ウムル・アト=タウィルに導かれ、時空を超越した世界へと足を踏み入れる。そこで彼は、宇宙の真理に直面する。
「古のものども」の玉座で明かされる衝撃の事実。全ての存在には「原型」があり、個々の人間はその一局面に過ぎないという。そして、カーター自身もまた、「窮極の原型」の一部であることを悟る。
その瞬間、カーターの意識は見知らぬ生命体へと転移する。
個人の存在意義が宇宙的スケールで問い直される。カーターの壮大な冒険は、人間の認識の限界に挑み、存在そのものの本質を探求する。
遺産処分という日常的な出来事から始まったこの物語は、やがて人智を超えた真実へと誘う。カーターの運命、そして人間の存在の真相とは—。