【概要】
本作は3,720語の短編小説で、1920年の秋頃に執筆されたと推測される。初出はWolverine誌1921年3月号と6月号で、その後Weird Tales誌1924年4月号と1935年5月号に再掲された。単行本初収録はO、校訂版はD、詳註版はCCに収録されている。
この物語は、表面的な異種間結婚の話以上に複雑な構造を持っている。冒頭の語り手の言葉は、ジャーミン家の事例が人類全体に関わる問題である可能性を示唆している。コンゴで発見された都市が白人文明の起源である可能性も暗示されており、これはラヴクラフトの人種主義的な恐怖観を反映していると考えられる。
ラヴクラフト自身は、この作品の着想源としてシャーウッド・アンダースンの『ワインズバーグ・オハイオ』を挙げている。アンダースンの作品が田舎町の隠された暗部を描いたのに対し、ラヴクラフトはより奇怪な手法で個人の家系の秘密を描こうとした。
初出時のタイトル「白い類人猿」は著者の意図とは異なっており、後に「アーサー・ジャーミン」に変更された。本来のフルタイトルが使用されたのは1986年の校訂版が最初である。
同時代の批評家たちは、この作品を高く評価している。アルフレッド・ギャルピンは作品の完成度と独創性を称賛し、サミュエル・ラヴマンも詳細な分析を行っている。
【収録】
【登場人物】
- アーサー・ジャーミン
- ロバート・ジャーミン…後に死亡
- ウェイド・ジャーミン…五代前の当主
- レディ・ジャーミン…ウェイドの妻
- フィリップ・ジャーミン…ウェイドとレディの子供
- ロバート・ジャーミン…フィリップの息子 1815年七代目子爵ブライトルムの娘と結婚
- ネヴィル・ジャーミン…ロバートの子供 次男 1849年踊り子と駆け落ち
- アルフレッド・ジャーミン…ネヴィルの子供 アーサーの父親
- 探検家のサムエル・シートン
- ムワヌ…カリリの部族長
【舞台】
- 1765年 ハンティングトンの精神病院
- 1913年
【あらすじ】
アーサー・ジャーミン卿の物語は、栄光と狂気が交錯する古い貴族家系の闇を浮き彫りにする。
18世紀、コンゴの初期探検者として名を馳せたウェイド・ジャーミン卿。しかし、彼の「先史時代のコンゴの白人」に関する奇説は、精神病院への道を開く。謎に包まれたコンゴ出身の妻—誰も見たことがない女性—を連れ帰った彼の末裔たちは、外見も精神も常軌を逸していった。
19世紀半ばには、ロバート・ジャーミン卿の狂気が頂点に達する。家族殺害未遂に加え、アフリカから帰還した探検家の友人までも殺害。この事件は、ジャーミン家の名に取り返しのつかない汚点を残した。
その汚名返上を志したアーサー・ジャーミンは、祖先ウェイド卿の研究を引き継ぐ。彼は必死に先祖の学説の正当性を証明しようと努めた。しかし、その探求は思わぬ方向へと彼を導く。
真実に近づけば近づくほど、アーサーは自身のルーツに潜む、想像を絶する恐怖の片鱗を垣間見ることになる。彼が直面した真実とは一体何だったのか。コンゴの奥地に眠る秘密、ジャーミン家の血筋に隠された謎。
アーサーの運命は、人間の理性と狂気の境界線上で揺れ動く。彼が最後に下した決断とは—。この物語は、知ってはならないものを知ってしまった時、人間の精神がどう崩壊していくかを鮮烈に描き出す。