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潜み棲む恐怖

潜み棲む恐怖

The Lurking Fear

ハワード・フィリップ・ラヴクラフト 全集3
概要
登場人物
あらすじ

本作は8,170語の短編小説で、1922年11月中旬から下旬にかけて執筆された。初出はHome Brew誌1923年1月号から4月号にかけての連載で、その後Nostalgia Tales誌1928年6月号に再掲された。単行本初収録はO、校訂版はD、詳註版はDWHに収録されている。

この作品は、『死者蘇生者ハーバート・ウェスト』と同様に、ジョージ・ジュリアン・ハウテインからHome Brew誌への掲載依頼を受けて書かれた。連載2回目以降は、ハウテインが前回のあらすじを付けたため、ラヴクラフト自身が要約を書く必要はなかった。挿絵はラヴクラフトの要望でクラーク・アシュトン・スミスが担当し、植物を性器に見立てるなど、独特の表現を楽しんだようだ。

本作は、ラヴクラフトの作品群における「遺伝による退化」というテーマの系譜に連なる作品である。『故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実』で提示されたこのテーマは、『壁のなかの鼠』を経て、後の『インスマスを覆う影』へと発展していく。その意味で、本作は『インスマスを覆う影』の試作的な性格を持つと解釈することもできる。

作品には自伝的要素も含まれている。主人公アーサー・マンローの名前は、ラヴクラフトの少年時代の友人から借用したと思われる。また、ジャン・マーテンスという名前は、ニューヨーク市最古の家屋の名前に由来する可能性がある。ただし、ラヴクラフトがこの家屋を実際に訪れたかどうかは不明である。別の説として、ラヴクラフトの知人ソニア・グリーンのアパート近くにあったマーテンス通りから着想を得た可能性も指摘されている。

  • 語り手
  • ジョージ・ベネット
  • ウィリアム・トビイ
  • アーサー・マンロー…記者
  • ジャン・マーテンス…1762年に死亡
  • ゲリット・マーテンス…1670年にマーテンスの館を建設
  • ジョナサン・ギフォード…ジャンの友人

【舞台】

  • 1920年〜21年 テンペスト山 オランダ?

1章:キャッツキル山脈の奥深く、不気味な噂に包まれたマーテンス館。周辺の不法定住者たちを襲う不可解な災厄の原因を、一人の勇敢な探索者が突き止めようとしていた。彼は、この幽霊屋敷こそが全ての元凶だと確信し、ある夜、親友のジョージ・ベネットとウィリアム・トビイと共に館に潜入する。万全の備えを整え、同じ部屋で夜を明かそうとする3人。しかし、彼らの運命は、誰も予想し得ない方向へと動き出す。

2章:その後、新たな協力者アーサー・マンローと再び調査に乗り出した語り手。彼らは、嵐の夜にこそ未知なる恐怖が最も猛威を振るうことを知っていた。ある集落で嵐を凌ごうとする2人。だが、窓の外を凝視していたマンローの様子が突如として変わった…。

3章:度重なる恐怖体験を経て、語り手はマーテンス館の歴史に真相のカギがあると確信する。1670年、英国人を憎悪する裕福なオランダ人、ゲーリット・マーテンスによって建てられたこの館。その後継者たちは周囲との交流を絶ち、召使いをも含めた近親婚を繰り返していった。そんな中、一族の闇に光を当てようとしたジャン・マーテンス。彼の存在が、この謎の核心に迫る重要な手がかりとなる。

そして最後のエピソードで、語り手は想像を絶する真実に直面する。キャッツキル山脈に潜む、人知を超えた存在の正体とは? マーテンス家の血筋に隠された、忌まわしき秘密とは? 彼の探求は、人類の認識を根底から覆す恐怖の結末へと導かれていく―。

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