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壁の中の鼠

壁の中の鼠

The Rats in the Walls

ハワード・フィリップ・ラヴクラフト 全集1 新訳3
概要
登場人物
あらすじ

本作は7,940語の短編小説で、1923年8月から9月頃に執筆されたと推測される。初出はWeird Tales誌1924年3月号で、同誌1930年6月号に再掲された。単行本初収録はThe Outsider and Others、校訂版がDagon and Other Macabre Tales、詳注版がAnnotated H.P. Lovecraft及びThe Call of Cthulhuに収録されている。

ラヴクラフト晩年の書簡によると、この物語の着想は日常的な出来事から得られたという。夜中に壁紙が剥がれ落ちる音を聞き、そこから想像が膨らんでいったとのことだが、興味深いことに、この具体的なエピソードは実際の物語には登場しない。

ラヴクラフトの創作メモには、この作品の核心が簡潔に記されている。「不気味に剥がれ落ちる壁紙。恐怖で命を落とす男」という記述に加え、「古城の地下祭室に潜む恐るべき秘密。10人の発見者」といった興味をそそる項目も見られる。

当初、ラヴクラフトはこの物語をArgosy All Story Weekly誌に投稿したが、編集長のロバート・H・ディヴィスは掲載を見送った。理由として、「一般読者の繊細な感性にはあまりにも恐ろしすぎる」と伝えられたという。

作中に登場する「ド・ラ・ポーア」という姓については、従来エドガー・アラン・ポーへの言及と解釈されてきた。しかし、ジョン・キプリング・ヒッツの指摩によれば、ポーと彼の元婚約者サラ・ヘレン・(パワー・)ホイットマンが共通の先祖と考えていた「ル・ポーア」を微修正したものである可能性が高い。ラヴクラフトはこの情報を、所有していたキャロライン・ティンクノー著「ポーのヘレン」(1916年)から得たと推測される。

物語の舞台となる英国の雰囲気は巧みに描かれているものの、いくつかの史実との齟齬が見受けられる。例えば、イグザム小修道院に最も近い町として登場する「アンチェスター」は実在しない。ラヴクラフトはリンカーンシャーの「アンカスター」か、あるいはオックスフォードシャー南部の「アルチェスター」を念頭に置いていた可能性がある。

また、「アンチェスター」が「アウグストゥス帝時代にローマ第三軍団の駐屯地」だったという記述は史実と異なる。実際には、これらの地域はローマ軍の駐屯地ではなく、アウグストゥス帝の第三軍団がブリテン島に来た記録もない。

本作には他の作品からの影響も見られる。「鼠にまつわる叙事詩」への言及は、S・ベアリング=グールドの「中世の奇妙な神話」(1869年)から着想を得たとされる。また、結末部のゲール語の叫びは、フィオナ・マクラウドの「罪を喰う人」からの直接的な引用である。

さらに、先祖返りや退行のテーマは、アーヴィン・S・コップの「The Unbroken Chain」(1923年)から影響を受けた可能性が高い。ラヵクラフト自身、フランク・ベルナップ・ロングから掲載誌を借りて読んだことを認めている。

本作は、ラヴクラフトの生前にクリスティン・キャンベル・トムスンの「Switch On the Light」(1931年)に収録された。また、1944年にハーバード・A・ワイズとフィリス・フレイザーが編纂した「Great Tales of Terror and the Supernatural」に収録されたことは、ラヴクラフトの文学的評価において重要な転機となった。

・デ・ラ・ポーア…主人公、姓はあるが名は明かされていない

・ノリス大尉…太っている

・ウォルター・デ・ラ・ポーア…ポーラ家の11代目の三男、火事の唯一の生き残り、主人公はその子孫

・アルフレッド・デ・ラ・ポーア…主人公の息子 空軍に所属し戦死、生前はノリス大尉の友人

・豚飼い…白い顎髭、デーモンと比喩される人間

古くから「殺人鬼の家系」として噂される家に生まれたディラポア。彼は過去から逃れるように故郷を離れ、新たな人生を歩み始めた。結婚し、家庭を築いた彼は、平穏な日々を送っていた。しかし、運命は彼に試練を与える。最愛の妻との死別、そして戦地で息子を失うという悲劇に見舞われたのだ。

再び孤独となったディラポアは、性を元のデ・ラ・ポーアに戻し、静かな余生を送ろうと、故郷イグザム小修道院へ帰還することとなった。

しかし、平穏であるはずの日々に、不可解な出来事が起こり始める。夜になると飼い猫が異常な興奮を見せ、壁の向こうからは、まるで鼠が走り回っているかのような奇妙な音が聞こえ、デ・ラ・ポーアは次第に不安を覚えていく。

真相を突き止めようと家の隅々まで調べ上げた彼は、驚くべき発見をする。隠された祭壇のある部屋を見つけたのだ。そこには、かつて何か禍々しい儀式が行われていた形跡があった。

困惑したデ・ラ・ポーアは、親友であるエドワード・ノリス大尉に助けを求め、二人で祭壇の部屋で一夜を過ごすことにしたが、そこでノリス大尉は衝撃的な事実に気付く。

―「鼠の音は、もっと下の方から聞こえている…」―

代々「殺人鬼」と恐れられてきたデ・ラ・ポーア家。その家系に隠された恐るべき真実とは一体何なのか。地下に潜む謎が、彼らの運命を大きく変えようとしていた…。

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