本作は1936年、WTの5月号に収録された。
ロバート・ブロックは、アメリカの小説家であり、主にホラー、SF、ミステリ作品を手がけた。若い頃はH・P・ラヴクラフトから強い影響を受け、彼の作風に倣った作品を発表していた。特に1930年代の作品は、ラヴクラフトの亜流と評されることが多い。
しかし、1940年代以降はブロック独自の文体を確立し、「ブロック調」と呼ばれるスタイルを打ち出した。代表作である『サイコ』は、アルフレッド・ヒッチコック監督によって映画化され、大きな成功を収めた。
ブロックは10歳の頃に『ウィアード・テイルズ』誌に出会い、ラヴクラフトの作品に感銘を受けた。1933年、16歳の時にラヴクラフトに手紙を送り、文通を開始。ラヴクラフトの指導を受けながら執筆活動を始め、1935年に「修道院の饗宴」でデビューを果たした。
「顔のない神」は、ブロックの初期作品の特徴であるエジプトを舞台とした物語であり、ラヴクラフトが創造した神格ナイアルラトホテプを巧みに取り入れている。
- シュトゥガッツェ博士
- ハッサン
【舞台】
- カイロ
エジプトの地で、ある偶像を探し求めるシュトゥガッツェ博士。偶像のありかを知るハッサンを拷問にかけるが、彼は最期に何かを告げて息絶えてしまう。
時は遡り、博士は密輸に手を染め、エジプトで盗みを働いたために解雇されていた。しかし再びカイロに住み、違法な売買で生計を立てていた。
一方、遊牧民たちが偶然見つけたのは、エジプトの神々の像でありながら、誰も見たことのない謎の偶像だった。その話を聞いた博士は、遊牧民に雇われていたハッサンを捕らえ、拷問にかけていたのである。
ハッサンの最期の言葉から、偶像のありかを知った博士は隊を組んで出発する。4日後、ついに発見されたのは、巨大なスフィンクス像。しかし、そこにあるはずの顔はなかったのだ。
そして、現地の人々が囁く「ナイアルラトホテプ」という言葉。かつてエジプトで崇拝されていた邪神の名を、彼らは恐れとともに語るのだった。