『陳列室の恐怖』は、リン・カーターによるクトゥルー神話作品であり、執筆過程で複数の題名変更を経験した。当初は「超時間の恐怖」と改題され、最終的に「ゾス=オムモグ」として1976年のアンソロジー『The Disciples of Cthulhu』で発表された。
本作は、ラヴクラフトの『博物館の恐怖』から着想を得ており、初期のタイトルはその影響を明確に示している。カーターの目的は、クトゥルー神話の欠落を埋めることであり、物語は新たな神話情報を提供する手段として機能していた。
しかし、『陳列室の恐怖』は当初の意図を超えて発展した。フリッツ・ライバーの影響を受け、カーターの以前の作品とは異なるアプローチを採用している。本作は、より豊かな描写と説得力のある物語世界を構築することに成功しており、単なる情報の羅列を超えた作品となっている。
物語の結末は一見陳腐に見えるが、象徴的な意味を持つ。「アルハザードの悪魔学」と「旧神」の叡智の衝突は、人間の視点からは善悪の基準を持たない宇宙的な力の対立を表現している。これはラヴクラフト的な宇宙観を反映しており、人間にとって無関心で危険な力の存在を示唆している。
- ハロルド・ハドリー・コープランド教授…過去作の人物
- ヘンリー・スティーヴンスン・ブレイン博士…サンボーン研究所の職員、『クトゥルフの呼び声』のエインジェル教授(1926年死去)の弟子にあたる
- アーサー・ウィルコックス・ホジキンス…主人公、サンボーン研究所の職員
- ヘンリー・アーミティッジ博士…ミスカトニック大学の大博士、『ダニッチの怪』(1928年の事件)を経験している
- セネカ・ラファム博士…ミスカトニック大学の人類学者、『暗黒の儀式』(1924年)を経験している
- ウィンフィールド・フィリップス…ラファム博士の助手の青年、『暗黒の儀式』(1924年)を経験している
- エミリアーノ・ゴンザレス…サンボーン研究所の夜間警備員
- 人外の崇拝者
【舞台】
- 1928-29年 カリフォルニア州サンボーン太平洋古代遺物研究所
1920年代末、カリフォルニアの片隅にある古代遺物研究所。職員ホジキンスは、突如として奇妙な仕事を任されることになる。休職中のブレイン博士に代わり、謎多き故コープランド教授の遺品整理に着手したのだ。
整理作業が進むにつれ、ホジキンスの夜は悪夢に支配されていく。特に「ポナペの小像」と呼ばれる遺品には、言い知れぬ不吉な雰囲気が漂っていた。教授たちの残した資料には、古代の秘本『ネクロノミコン』への言及があり、ホジキンスの不安は深まるばかり。
一方、研究所の理事会は小像の一般公開を決定。ホジキンスは危険性を訴えるも、その主張は迷信扱いされてしまう。真相究明のため、彼は東部の町アーカムへ向かい、ミスカトニック大学で『ネクロノミコン』を調査する。そこで彼が目にしたのは、人知を超えた存在「旧支配者」についての恐ろしい記述だった。
アーミティッジ博士から謎の護符「旧き印」を託されたホジキンスは、小像公開のニュースを耳にし、急ぎ研究所へ戻る。そこで彼を待ち受けていたのは、警備員の無残な遺体と、小像を崇める得体の知れない人影だった。
その存在がホジキンスに気付き、拳銃を構える瞬間――。