誘引

誘引

The Tugging

グラ2 ラムジー・キャンベル
概要
登場人物
あらすじ

1971年7月4日、オーガスト・ダーレスは永眠した。62年の生涯を終えた彼は、若年より驚異的な仕事量で知られ、その健康を憂慮したラヴクラフトから休養の進言を受けたこともあった。しかし、ダーレスは労働こそが自身の存在意義だと主張し、最後までその信念を貫いた。結果として、過剰な仕事が彼の寿命を縮める要因となったのである。

英米幻想文学界の重鎮であったダーレスの死をロバート・ブロックは一時代の終焉と表現した。その遺志を継承すべく、キャンベルは『New Tales of the Cthulhu Mythos』を編纂。また、ラヴクラフトの知己であったドナルド・ウォルハイムは新たな出版社を設立し、革新的な神話アンソロジーの発行に着手した。その編集者となったエドワード・P・バーグランドが、キャンベルに原稿を求めたのは、彼が職業作家となって間もない昭和49年のことであった。キャンベルはこの依頼に応え、1976年に『The Disciples of Cthulhu』として世に送り出された。

本作はラヴクラフトの創作を踏まえているが、キャンベルは後年、自身が再びその本質を取り違えてしまったと反省している。宇宙の周期性を論じたラヴクラフトの概念を、天体の具体的な動きに置換してしまったことを悔やんでいるのだ。

この自省にもかかわらず、本作を収めた『The Disciples of Cthulhu』は、70年代を代表するクトゥルー神話選集として高い評価を得ている。この選集の特色は、斬新な邪神たちの登場にある。リン・カーター、ウォルター・C・デビル・ジュニア、エディ・C・バーティン、そしてキャンベル自身が、それぞれ独自の神格を創出し、神話の世界観を拡大したのである。これらの神々は、後にTRPGを介して日本でも広く認知されるようになった。

クリス・ハローチャ=アーンストの研究によれば、グロースという存在はキャンベルの作品外では極めて稀にしか登場せず、クトゥルー神話に精通したリン・カーターでさえ触れていないという。ただし、平成7年にケイオシアム社から出版された『Made in Goatswood: New Tales of Horror in the Severn Valley』は例外だ。この作品集はキャンベルへの敬意を表したもので、ケヴィン・ロスによる『The Music of the Spheres』が収められている。この短編は本作を基に執筆されたものだ。

ハローチャ=アーンストはまた、ラヴクラフトがロバート・バーロウ宛ての書簡で言及した「ガロス」がグロースの起源ではないかと推測している。しかし、この説には疑問が残る。ガロスはバーロウの連作短編に登場する魔神で、その性質はグロースとは大きく異なるからだ。ガロスは通常、人類を冷ややかに観察する存在として描かれるが、その強すぎる好奇心のために時として危険な目に遭遇する。このキャラクター性はグロースとは相容れないものだろう。

さらに興味深いのは、1962年に東宝が製作した『妖星ゴラス』との偶然の類似性だ。この特撮映画では、未知の天体が地球に接近するという筋書きが展開され、その星の名称も本作と酷似している。しかし、キャンベル自身は『妖星ゴラス』の存在を知らなかったと述べており、この類似は純粋な偶然と考えられる。

  • インゲルス…ジャーナリスト
  • ヒラリー…彼女
  • インゲルス父…バラエティ座で天文愛好家をしていた
  • ジョゼフ・インゲルス…バラエティ座で窃盗を働いたグループの一人
  • ムナガラー
  • グロース

【舞台】

  • ブリチェスター

ブリチェスター・ヘラルドの有能なジャーナリスト、インゲルス。彼の日々は、奇妙な悪夢に悩まされ続けていた。

夢の中で、インゲルスは海底から浮上する不気味な都市を目にする。その都市の扉から、青白い得体の知れない生物が覗いているのだ。しかし、彼の悪夢はそれだけにとどまらない。

知らない部屋で望遠鏡を覗き、何かを待っている自分。そして不思議なことに、父もまた同じ夢を見ていたのだ。

ついに、夢の中の部屋の正体が明らかになる。それは、バラエティ座の二階にある、かつて天体愛好家が使用していた部屋だった。このバラエティ座には、インゲルスの知られざる過去が隠されていた。彼の祖父とその仲間が、かつてこの建物で窃盗を働いていたのだ。

真相を突き止めようと、インゲルスはその部屋に足を踏み入れる。そこには、夢で見た望遠鏡が立てられていた。

彼が目にする真実は―。

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