トップ > 作品一覧 > 小説 > 角笛をもつ影
角笛をもつ影

角笛をもつ影

Black Man with a Horn

真7 T・E・D・クライン
概要
登場人物
あらすじ

本作は1980年に刊行された。

クラインの特徴的な作風は、恐怖に巻き込まれた人間の行動を細やかに描写しながら、その背景に超常現象を浮かび上がらせる手法にある。この点でスティーヴン・キングとH・P・ラヴクラフトの中間に位置すると言えるだろう。彼はプロヴィデンスのブラウン大学でS・アーマンド教授からラヴクラフト研究を学んだ。筆者が実際にプロヴィデンスを訪れて教授と対面した際、「キングは大衆向け作家だが、クラインは純粋な怪奇文学の書き手」と評したところ、教授も同意見だと頷いたという。

「角笛をもつ影」という作品では、崇拝する師ラヴクラフトの域に生涯到達できないと悩む弟子(モデルはロング)の悲哀を綴りながらも、その行く末に忍び寄るチョ・チョ人の恐怖が巧みに暗示されている。

作中に巧妙に配置されたラヴクラフトの書簡からの引用が全体の雰囲気を高め、ラヴクラフト愛好者にとっては心揺さぶられる傑作となっている。

  • 語り手…作家
  • モード…妹
  • アンブローズ・B・モーティマー…牧師
  • ジャクトゥ・アブドゥル・ジャクトゥ=チョウ
  • シュグオラン…シュー・ゴラン
  • チョーチョー人…チョーチャ

【舞台】

  • マイアミ

「私は無事に今を生きている」
この物語を語れるのは、私がまだ生きているからだ。しかし、この一連の出来事の間、私の運命の糸がいかに細く危うかったことか。
イギリスで開催されたラヴクラフト関連のイベントに招かれ、帰国の途についた私の不運は連続していた。まず空港で中国人観光客とぶつかり、彼の料理が私の服を彩った。そして飛行機では隣席の婦人の吐瀉物を浴びるという屈辱。席を変えてもらった先に待っていたのは、空港で私にぶつかってきた男だった。

彼は眠っていたが、その顔の肌には何か違和感があった。人工的な、まるで変装しているかのような印象。彼が目を覚まし、私の視線に気づくと、意外にも率直な会話が始まった。

「変装しているのですか?」という私の問いに、彼は驚くほど素直に認めた。モーティマーと名乗るその元牧師は、自分が「追われている」と言い、マレーシアの内陸部で出会った「チョーチャ族」に関する不可解な話を始めた。

彼の語る物語は、真実と虚構の境界が曖昧だった。しかし「ジャズレコードに描かれた、どこにでもありそうなホーンを吹く黒い人影」という私の何気ない言及に、彼は異様な反応を示した。それは彼の恐怖の核心に触れるものだったのだろうか。

彼がマイアミへ向かうと知り、私は妹の住所を教えた。単なる親切心だった。当時の私は、それが運命の糸を絡ませる行為だとは思いもしなかった。

ニューヨークに戻った私は、近所のアメリカ自然史博物館で偶然にも19世紀マレー半島の民族衣装を目にした。そこに描かれていたのは「黒いシルエットの人物」—〈死の使い〉と呼ばれる存在だった。そして「チョーチャ族」という言葉が、ラヴクラフトの創作したクトゥルフ神話に登場する「チョー・チョー人」と奇妙なほど似ていることに気づいた。

ある日、新聞はモーティマーがマイアミの嵐で行方不明になったと報じた。そして警察がマレーシア人の男「ジャクトゥ=チョウ」を捜索中だという不穏な情報と、妹の給仕が突如として姿を消したという事実。

文献を調べても、チョ・チョ族や彼らの信ずる神々についての情報は得られなかった。しかし、ある映画の製作資料にシュー・ゴロンという悪魔への言及を発見する。

これらは単なる偶然なのか、それとも目には見えない何かが糸を引いているのか。私が無事に今を生きているのは、まだ物語が終わっていないからなのかもしれない。

カテゴリー一覧