本作は1980年、”New Tales of Cthulhu Mythos”に収録された。
ドレイクは1967年に”Travellers by Night”で、デビュー作”Denkirch”を出した。人間の精神を遠い宇宙の異星生物へ転送する実験に没頭する狂科学者を描いた異色作だったが、『蠢く密林』はその作風から一転、現実感溢れる暗鬱な雰囲気の物語となっている。
クトゥルフ神話に関連する要素よりも、残虐行為の描写が異様なまでに詳細で、これは作者自身のヴェトナム従軍経験が投影されていると考えられる。ドレイクはその後、戦場での体験を素材として、軍事色の強いSF作品を数多く世に送り出した。
- アリス・キルリア夫人…宗教の研究家
- オスターマン軍曹
- トロ―ヴィル大佐
- ド=ブリニ
- スパロウ…アリスの雇った用心棒
- アフトゥ…ナイアルラトホテップの化身
【舞台】
- コンゴ
コンゴの熱帯雨林、緑の濃淡が幾重にも重なる静寂の中で、一人の男が村の中央広場の柱に縛られていた。ベインガ食人族の戦士たちが円を描くように取り囲み、男の運命が決まるのを今か今かと待ち構えていた。
鞭が空気を切り裂き振り下ろされようとした瞬間、男の子供が悲鳴を上げながら駆け寄った。だが、それは男の命運を変えることはなかった。冷酷な儀式は続行され、男は息絶えた。戦士たちが今度は子供に手をかけようとしたその時、スーツに身を包んだベルギー人、トローヴィル大佐が現れ、冷たい声で制した。
時は流れ、場面はロンドンへと移る。
アリス・キルリア夫人は薄暗い書斎で、冒涜的な古書に目を走らせていた。ろうそくの光だけが照らす部屋で、彼女は「生と死を分離する方法」と題された章を熱心に読み込んでいた。彼女は魔導書の研究に没頭していた。そこには彼女が求める力が記されていると信じて。
再びコンゴへ。
ベインガ族の監視役バロコはゴムの計量を厳しい目で行っていた。ムフィニが持ってきたゴムにいちゃもんをつけ、彼の手をナイフで切りつけた。片や、オスターマン軍曹はムフィニの娘を強引に妻としていた。コンゴの森は欧州人の欲望と暴力で満ちていた。
一方、ロンドンの夫人は古い魔導書の中で驚くべき記述を発見する。
「暗黒の大陸のジャングルでは這いよる混沌が成長している」
秘書のジョンは夫人の研究に必要な資料を用意していたが、彼女に対して深い憎悪を抱いていた。彼女の冷酷さと異常な執着は、通常の学術的興味の範疇を超えていると感じていたからだ。
森の奥地では、説明のつかない事件が続発していた。太い何かが人間を殺し、時に村全体が一夜にして消滅した。恐怖は森全体に広がっていった。
ロンドンのキルリア夫人は遺言書を書き上げると、船でコンゴへと向かった。彼女の目的は明確だった。
コンゴに到着した夫人は、トローヴィル大佐と面会する。彼女はスパロウという古参兵が護衛としてつけていた。表向きの目的は黒人の反乱を鎮圧することだったが、夫人の真の目的は別にあった。
大佐から話を聞くと、森の奥に「新しい神」が現れたという噂があった。詳細はわからないが、バコンゴ族はその存在を恐れているという。
「彼らはその神をアフトゥと呼んでいる」と大佐は言った。
夫人の瞳が輝いた。彼女はすでにその名を知っていた。バコンゴの言葉でアフトゥ、別名ナイアルラトホテップ。彼女が探し求めていた存在だった。
一行は船から上陸し、森の奥へと歩き始めた。緑の闇がゆっくりと彼らを飲み込んでいく。彼らは知らず知らずのうちに、この世の理解を超えた恐怖の中心へと足を踏み入れていたのだ。