本作は1970年、『ウィアード・ブック』第3号に収録された。
レイ・ジョーンズについては生年月日や詳しい経歴などの情報が残されていない。
当初はこれをアマチュア作家の書いた作品と考えていたが、『ウィアード・ブック』の創設者であり編集長だったポール・ギャンリーが、雑誌創刊当時は誌面を埋めるために自分でかなりの量の小説を執筆したと語っていることから、おそらくギャンリーが使用した筆名の一つである可能性がある。
ギャンリーはラヴクラフトとハワードの作品を深く研究した人物で、1968年に『ウィアード・ブック』の創刊号を世に送り出した。後にはラムレイやキャンベルの作品も『ウィアード・ブック』に掲載されるようになった。
- ぼく
- マドック家
【舞台】
- カリフォルニア
にも近隣の住民たちは温かく、特にマドック家の人々とは親しくなった。ある夕暮れ、沈みゆく太陽を眺めていたとき、夕日に照らされた森の中に不自然な空き地が浮かび上がった。好奇心に駆られた私は、木々を抜けそこに向かった。
辿り着いた場所には、古びた石造りの井戸があった。バケツで水を汲み上げると、驚くほど透明で美しい水が現れた。一口飲んでみると、微かな甘みを感じる程度で、特に変わった味はしなかった。しかし奇妙なことに、確かに飲んだというのはわかるのに、その味や感触を想像することができないのだ。ただ、体を抜けていったかのように。
その夜、勉強に集中しようとすると、突如として白昼夢が私を襲った。夢の中で私は、見知らぬ宗教の司祭となっていた。祭壇の背後には地下へと続く暗い階段があり、私が詠唱を始めると階下から不気味な音が次第に大きくなっていった。やがて祭壇には恐ろしい姿の怪物が姿を現した—毛虫のような漆黒の体から無数の刃が飛び出し、集まっていた信者のうち二人が怪物の犠牲となる様子を、私は儀式の執行者として見つめていた。
恐怖で目を覚ました私は、翌日再び井戸へと足を運んだ。今度はじっくりと井戸を観察すると、石の表面には微かな彫刻が刻まれていることに気づいた。さらに井戸を中心に五カ所、地面の色が変色している箇所を発見する。そして恐るべきことに、井戸の彫刻は白昼夢で見た儀式の紋様と一致していたのだ。
人里離れた農家、古代からの井戸、そして白昼夢—これらの間に潜む不吉な繋がりを、私はまだ理解していなかった。しかし井戸の水を飲んだその瞬間から、私の運命は取り返しのつかない方向へと動き始めていたのだ。