
【2025年版】「眠りの壁の彼方」入門|あらすじ・登場人物・おすすめ版まとめ
Byyond the Wall Sleep
概要
本作は4,360語の短編小説で、1919年春に執筆された。初出は1919年『Pine Cones』の10月号で、その後1934年、『The Fantasy Fan』の10月号と、1938年、『Weird Tales』の3月号に再録され、『Beyond the Wall of Sleep』にまとめられた。校訂版は『Dagon and Other Macabre Tales』、詳註版は『The Thing on the Doorstep and Other Weird Stories』に収録されている。
ラヴクラフトは、New York Tribune紙に掲載されたニューヨーク州警察に関する記事から着想を得たと述べている。特に、キャッツキル山脈の住民に関する記述や、スレイター家への言及が物語の元になったという。また、物語の結末部分に登場する新星についての記述は、ラヴクラフトが所有していた天文学の書籍から直接引用されている。
本作品の影響源については諸説ある。アンブローズ・ビアースの『壁のかなた」との類似性を指摘する意見もあるが、題名以外の共通点は少ない。一方で、ジャック・ロンドンの『太古の呼び声』(原題:Before Adam)との類似性がより注目される。ロンドンの作品では現代人が原始時代の先祖の人生を夢に見るのに対し、ラヴクラフトの作品では原始的な人間が高度な知性の幻覚を見るという、いわば鏡像的な構造になっている。
この作品は、ラヴクラフトの初期作品の中でも重要な位置を占めている。遺伝的記憶や意識の連続性といったテーマは、後の彼の作品群でも繰り返し扱われることになる。また、文明と原始性の対比、そして人間の意識を超えた存在への言及など、後のラヴクラフト作品の特徴的な要素がすでに見られる点で注目に値する。
さらに、ジャーナリズムや科学的知識を巧みに物語に取り入れる手法は、ラヴクラフトの創作スタイルの特徴を示しており、後の作品でより洗練されていくことになる。この作品は、ラヴクラフトが自身の文学的アイデンティティを確立していく過程を示す重要な一例と言えるだろう。
登場人物
- 語り手:インターン。
- ジョー・スレイター
- バーナード医師
- フェントン医師
- ギャレット・P・サーヴィス教授
- アンダースン博士
舞台
- 1900〜1901年 州立精神病院
あらすじ
1900年、キャッツキル山脈。殺人の罪で精神病院に収容されたジョー・スレイター。一見、単なる狂人に思えるこの男の内に、語り手は何か特別なものを感じ取っていた。
スレイターの狂気は尋常ではなかった。彼の脳裏には、奇妙な宇宙的幻視が次々と浮かび上がる。しかし、彼の「退化した方言」では、その壮大なヴィジョンを適切に表現することができない。まるで、彼の意識が別の次元と繋がっているかのようだった。
精神病院の実習生である語り手は、スレイターの荒唐無稽な妄想の中に、人知を超えた何かが潜んでいると直感する。彼は、この特異な患者に強い興味を抱き、その謎めいた内面世界に迫ろうと決意する。
語り手は、スレイターの意識と直接交信することを思い立つ。そして、「宇宙的ラジオ」という奇妙な装置を開発し始める。幾度もの失敗と挫折を乗り越え、ついに彼は成功を収める。
その瞬間、語り手の意識は未知の領域へと引き込まれていく。妖しくも美しい音楽が鳴り響き、鮮烈な色彩を帯びた幻視が次々と現れる。スレイターの狂気の正体、そして彼が見ていた世界の真実が、今まさに明かされようとしていた。
人間の理性では理解し得ない宇宙の秘密。狂気の向こう側に潜む、想像を絶する真実。語り手は、自らの好奇心が開いた扉の先に広がる、恐るべき世界の片鱗を目にすることになる。果たして、彼の精神は耐えうるのか。そして、この発見が彼にもたらす運命とは―。
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