『白蛆の強襲』
クラーク・アシュトン・スミスが手掛けた『エイボンの書』の起源となる作品である。スミスは1933年9月初旬にラヴクラフトとの書簡のやりとりで、本作の執筆に励んでいることを明かした。ラヴクラフトには氷山イイーキルスの一室における白蛆ルリム・シャイコースの活動や、『エイボンの書』の結末構想について語っている。
また預言者リスの格言も登場するが、この格言は未だ謎に包まれている。
1933年9月15日に『白蛆の襲来』を脱稿したスミスは、ラヴクラフトにその複写を送付し、ラヴクラフトは即座に感銘を受けた。特にスミスが物語に散りばめたヒントや謎に魅了され、イイーキルスの由来やルリム・シャイコースの地球来訪の経緯に強い関心を示している。
スミスはこの作品を「自身でも気に入っている物語」と評し、他作品同様、独自の文体と雰囲気を維持するのに苦心したと述べている。
『極地からの光』
本作の初出は1980年ウィアード・テールズ誌である。
リン・カーターとスミスの作品研究者スティーブ・ベーレンズは、『極地からの光』の存在理由について、カーターがスミスの『白蛆の襲来』の初期草稿の一部を発見し、その豊富な内容が無駄になることを忍びなかったためだと指摘している。カーター自身も「私は……非常に努力した…スミスがその物語を書き直す際にオリジナルから削ってしまったどんな断片でも復旧させようと」と述べている。
さらにカーターは、
「ところで、私は『極地からの光』の中に仲間内にしか通じない小さな冗談を忍ばせた。主人公ファラジンの名は、トム・コッククロフトが長年居住するニュージーランドの『ファラジン街』に由来する。『ラヴェ=ケラフ』や『クラーカシュ=トン』などの洒落た命名が散見されることを考えれば、これも相応しいだろう」
と、作品に遊び心を込めている。
【収録】
- 魔術師ファラジン…『白蛆の強襲』
- 預言者ファラジン…『極地からの光』
- ラサ少年…使用人
- 老婆アヒリディス…使用人
- ルリム・シャイコース…『白蛆の強襲』
- アフーム=ザー…『極地からの光』
- ドゥーニ ・アクス
- ロッダン
- トゥーラスクの魔術師
- 冷たきもの
- 預言者リス
ムー・トゥラン半島を襲う未曾有の寒波。真夏というのに、凍てつく風が吹き荒れる。魔道士エウァグは、この異常気象の裏に潜む真実を探ろうとするが、その試みは悉く失敗に終わる。彼の心に去来するのは、人類に対する計り知れない脅威の予感だった。
その不安は現実のものとなる。海岸に漂着したガレー船。そこには、凍りついたような死体だけが残されていた。住民たちは恐れおののき、船もろとも火葬に付す。しかし、炎すら寄せ付けない冷たさを持つ死体たち。それは、人知を超えた力の介入を物語っていた。
そして、沖合いに現れた巨大氷山。そこから放たれる異様な光は、触れたものすべてを凍結させていく。唯一生き残ったエウァグは、氷山の中へと引き込まれる。
そこで彼は、ドーニとウクス・ロッダンという二人の魔道士と出会う。彼らが語るのは、想像を絶する真実だった。エウァグもまた、巨大な白蛆、ルリム・シャイコースに仕えるべく選ばれた者だというのだ。
恐怖と戸惑いの中、エウァグはルリム・シャイコースと対面する。その圧倒的な存在感の前に、彼は自らの運命を悟る。抵抗の余地など、どこにもない。
こうして、白蛆の要塞イイーキルスは大陸沿いを移動し始める。その行く先々で、新たな魔道士たちが加わり、やがてその数は8人に膨れ上がる。表向きは皆、ルリム・シャイコースへの忠誠を誓う。しかし、エウァグの心の奥底では、反逆の炎が燻り続けていた。
そしてある日、仲間の一人が忽然と姿を消す…。
エウァグの運命は、果たしてどこへ向かうのか。そして、ルリム・サイコルスの真の目的とは―。