本作は1954年、WTの7月号に掲載され、1957年に “The Surviver and Others” にも収録された。
『爬虫類館の相続人』はラヴクラフトの考えをもとに作られた作品の中でも、長編『暗黒の儀式』と同じくらい高く評価されている。
この作品についてはロバート・H・バーローも証言を残している。彼によると、ラヴクラフトは1934年のある日、この物語のことを詳しく話してくれたという。バーローはその後すぐに完成した小説が読めると思っていたが、実現しなかった。
バーローの記憶では、この物語はニューイングランドの静かな通りにあった17世紀のケベック風の建物から思いついたもので、フランス人の魔術師がワニの長生きの秘密を探り自分のものにしようとするけれど、思いがけず怖い姿になってしまうという話だったそうだ。彼の印象に残っているのは、かがんだ人影が不思議な館の裏庭を通り抜けて建物の入口に消えていく場面だけだという。
『爬虫類館の相続人』はこのバーローの思い出話とラヴクラフトの以下のメモを基に作られた:
- ジャン=フランソワ・シャリエール
- 外科医
- クロコダイル及びガビアル研究
- 1636年バイヨンヌ生まれ
- パリ(1653年・17歳)
- 1660年以前、王室追放者リチャード・ワイズマンに師事
- インド駐留フランス軍の外科医(ポンディシェリ、1674年および1683年)
- ケベック(1691年)、アーカム(1697年)
- 館の建設(1698〜99年)
- クライマックス(1708年、シャリエール72歳)
- アリジャ・アトウッド…古物収集家
- ギャムウェル…友人
- ジョン・フランソワ・シャリエール…外科医
- ヘプジバ・コベット
【舞台】
- 1930年 プロヴィデンス
主人公のアリジャ・アトウッドはシャリエール館で奇怪なものを目撃し、すぐに逃げ出した。後に警察はついに「それ」を発見したが、彼らは合理的な解決を求めるばかりだった。
時は遡り1930年、ニューオリンズへの途中でプロヴィデンスに立ち寄った私は、噂の幽霊屋敷「シャリエール館」を訪れた。科学的に説明がつくよう、この噂を解明したいと思ったのだ。
友人ギャムウェルはこの館の名前を聞くと妙に口をつぐみ、1927年に亡くなったシャリエール博士について語った。博士は生前、多額の金を払い「いずれ現れる甥」のために館を保存するよう市に依頼していた。一度だけ入居者がいたが、異様な湿気と臭気から早々に退去したという。
忠告を聞かず館を借りたアリジャは、博士の実験室をそのまま発見。ワニの研究らしき図表があり、建物は少なくとも1700年代のものと思われた。敷地内には博士の墓石もあったが、詳細は記されていなかった。
調査を進めると、1636年バイヨンヌ生まれの人物の記録が見つかり、これが博士の先祖だろうと考えた。さらに博士と取引していた会社に問い合わせると、6年間やり取りはしていたものの、誰も直接会ったことがないという不思議な事実が判明。また「甥」ではなく「唯一の相続人」としか記録になく、謎は深まる一方だった。
ギャムウェルによれば、彼が1907年に会った博士は80歳ほどに見え、その20年後に亡くなったとのこと。近隣住民からは評判が悪く、多数のトカゲを購入し実験をしていたそうだ。隣人のコベット婆は、博士が「蛇より大きい黒いもの」を連れ歩き、夜には奇妙な生き物の声が聞こえたと証言した。
情報収集を終え再び館に戻った私は、増していく異臭と幻覚症状に悩まされるようになる。博士の書斎で調査を進めると、科学では説明できない、時を超えた恐ろしい真実があった。