本作は1980年、”New Tales of the Cthulhu Mythos”に収録された。
- ハリー
- ジュリアン
- モールデン…教会に住む老人
- カスィルダ…ミイラの女性、巫女
【舞台】
- ハンガリー
ハンガリーの荒涼とした大地に観光客のハリーとジュリアは立っていた。彼らはロンドンに戻れば結婚する予定だった。
二人はブダペストに向かう途中、「魔女の町」と呼ばれる場所にある黒い石を見学したばかりだった。その訪問以来、ジュリアは原因不明の頭痛に悩まされるようになっていた。「あの教会が何か関係しているのではないか」とハリーは考えた。
宿泊先のゾリバーザルに着き、食事の席でハリーは宿の主人に教会について尋ねた。主人の表情は曇り、静かな声で語り始めた。
「あの教会は危険な場所です。古い建物で長らく誰も住んでいないと思われていましたが、修道士を名乗る男が一人、住み着いています。彼はその宗派の最後の生き残りだと言います」
主人は言葉を継いだ。「あそこには近づかないことをお勧めします。もし行かれるなら、何も触れてはなりません」
その警告にもかかわらず、ジュリアは挑戦的な微笑みを浮かべた。「迷信を暴きに行くのよ」
空は曇りから雨へと変わっていった。不吉な前兆のように。車を教会近くに停め、二人は古びた石造りの建物に近づいた。不思議なことに、ハリーはこの場所に既視感を覚えた。
大扉が音もなく開き、中には白髪の老人が立っていた。「なぜここに来たのですか?」という老人の問いに、ハリーは言葉を失った。なぜなら、自分がなぜこの場所に引き寄せられたのか、わからなかったのだ。
時間がないとジュリアが告げると、老人の態度は一変した。二人を逃がさないかのように大扉が突然閉まり、老人は自らをモールゼンと名乗り、二人を図書館へと案内した。そこには古い訪問者名簿があった。最後の訪問者は10年前。そして最初の記録は1611年にまで遡った。
「なぜ人が来なくなったのか知りたいですか?」
モールゼンは語り始めた。「ジャスティン・ジェフリーが最後です。彼は黒い石を見すぎた。チャールズ・デクスター・ウォードも来ました。彼らは皆、知識を求めていたのだ」
ジュリアが黒い石について尋ねると、モールゼンは棚から古い本を取り出した。それらは魔導書だった。
「他にも見せたいものがある」と言って、彼は二人を地下の納骨堂へと導いた。
納骨堂には一体の女性ミイラがあった。その足元には奇妙な彫刻が施された小箱があり、半身がヒキガエル、半身が犬で、口には触手が生えた生き物が描かれていた。
「彼女の友だちです。箱の中で眠っています」とモールゼンは説明した。彼女は400年前に亡くなった巫女だという。
帰ろうとする二人に、モールゼンは古い儀式について語り始めた。「ミイラの手を取って願い事をすれば―」
ジュリアは拒否したが、ハリーは同意した。「それをしたら帰ろう」。ハリーがミイラの干からびた手を取った瞬間、ジュリアが寄りかかっていたカーテンが崩れ落ちた。
露わになった壁には、箱に描かれていたのと同じ異形の生物と、巫女が恐ろしい儀式を執り行う様子が描かれていた。血の色をした絵の具で描かれた壁画は、人間の犠牲と異界への門を開く様子を生々しく表現していた。
怒りと恐怖に駆られたハリーに、モールゼンは静かに、しかし不気味な笑みを浮かべながら告白した。
「この寺院はかのもののため、クトゥルフとその眷属のための…」
その言葉が納骨堂に響き渡ったとき、外では車のエンジン音が静かに鳴り始めていた。二人の観光客を迎える準備が整ったかのように。