【概要】
本作の初出は1942年、『フューチャー・ファンタシィ・アンド・サイエンス・フィクション』十二月号。その後1968年『マガジン・オブ・ホラー』の九月号に掲載された。
ロバート・オーガスティン・ウォード・ローンズ(1916-1998)は、コネティカット州ブリッジポート出身のSF作家・編集者として文学界に足跡を残した人物である。「フューチャリアンズ・ファン・グループ」の会員として活動し、複数のペンネームを駆使して豊富な作品を世に送り出した。日本でも彼の『宇宙鉱山の秘密』が少年少女向け小説として翻訳されている。
1941年からコロンビア社の『フューチャー・フィクション』をはじめとする複数のSF雑誌の編集長を務め、パルプ時代の終焉後も「アヴァロン・ブックスSFシリーズ」の編集を担当するなど、SF文学の発展に貢献した。1960年から1970年にかけてはヘルス・ナリッジ社に在籍し、『マガジン・オブ・ホラー』など多数のリプリント雑誌を編集。特に『マガジン・オブ・ホラー』では『ウィアード・テールズ』『ストレンジ・テールズ』の埋もれた作品を掘り起こし、怪奇小説ファンから支持を集めた。
ローンズがH.P.ラヴクラフトの作品と出会ったのは1931年の『ウィアード・テールズ』10月号に掲載された『霧のなかの家』だった。彼はラヴクラフトに憧れ、勇気を出して手紙を送った。その返信の親身な内容に感動したものの、交流はラヴクラフトの死の直前のわずか2通で終わる。ラヴクラフトは最後の手紙でローンズを「頭脳明晰で芸術的感性のある新しい文通仲間」と評した。
1941年から1942年にかけて、ローンズは『深淵の恐怖』など3篇の神話作品を執筆。彼が創造した魔道書『イステの歌』も注目された。初期作品は明らかにラヴクラフトの影響を受けていたが、『月に跳ぶ人』や『Settler’s Wall』はより独自性の強い作品へと進化していた。
【収録】
【登場人物】
- アーノルド・グレイスン
- クリフォード・ピアス
- ジェフリー・バー
- ヴィンセント・バー…ジェフリーの甥
- アーサー・クラークスン
- カルロ・リッチ夫婦
- アンジェラ…リッチ夫婦の娘
- クララ・スコット…アンジェラの友人で月に跳んだ人
- アーサー・イネス…アマチュア天文学者
- ジョーリス博士
- スチュアート・キャラダイン
- アルバート・デニス…キャラダインの姉
- エドモンド・オリヴァー…グレイスンの編集者
【舞台】
- 1942年~1967年 アメリカ
【あらすじ】
その手記は財産管理人ピアスに託されるはずだった。しかし不可解なことに、手記を受け取るはずの人々が次々と命を落とし、さらに奇妙なことにピアス自身は一度もその手記を受け取っていなかった。
40年の時を経て1960年代後半、ようやく日の目を見る手記。そこに書かれている内容は不可解だった。
私は真実を知るためにバーの家を訪れたが、既に焼失して何も残っていなかった。
私は真実にたどり着けないが、手記の内容をここに残しておく。
手記には新聞の切り抜きが貼られていた、―「7月27日、満月の夜、地球の生物が月に引き寄せられる」―。
その日に消えた芸術家たちには共通点があった。独身であること、豊かな想像力を持つこと。そして30日の記述には、「27日の夜、多くの人々が月へ跳んでいく」姿を目撃した酔っ払いの証言が書かれていた。
古い論文に記された「YとTの力の均衡」という神話的記述。1942年7月27日の満月の夜に何が起きたのか…。