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暗黒星の陥穽

暗黒星の陥穽

The Mine on Yuggoth

真4 ラムジー・キャンベル
概要
登場人物
あらすじ

本作は1964年、単行本『湖畔の住人』に掲載された。

1961年にキャンベルがアーカムハウスへ送った原稿の中に「ユゴスよりの塔」(The Tower from Yuggoth)と題する短編があり、これを改稿したものが後の作品となった。最初の「ユゴスよりの塔」はパット・カーニーが発行したファンジン”Goudy”の第二号に掲載され、改稿版は1964年にアーカムハウスから刊行されたキャンベル初の作品集”The Inhabitant of the Lake and Less Welcome Tenants”に収録された。

元の「ユゴスよりの塔」の舞台は1920年代のアーカムやダニッチで、主人公はエドワード・ウィンゲイト・アーミティッジという人物だった。彼はミスカトニック大学に通っていたとされているが、同大学図書館の司書であるヘンリー・アーミティッジ博士との関連性は示されていない。

オーガスト・ダーレスは1961年10月の書簡で、「アーミティッジやピーバディなどの姓をラヴクラフトから借用するのは避けた方がよい」と助言し、物語の舞台を英国に移すよう勧めた。さらに、作中のヨタカの描写についても「普通ヨタカは飛んでいる最中に羽音を立てない」と細かく指摘している。ウィスコンシンの自然の中でヨタカの鳴き声を聞き慣れていたダーレスならではの発想だろう。

改稿版では舞台が英国のブリチェスターに移され、主人公の名前もエドワード・テイラーに変更されたが、物語の大筋は元の「ユゴスよりの塔」と一致している。しかし、著作権の問題から書き直す必要があった。「Goudy」に掲載された際、著作権がキャンベルにあることが明記されておらず、ダーレスはこれが公有に帰してしまったと判断したのだ。キャンベルが著作権を主張できるよう、改稿版を新作として執筆させた。若きキャンベルにとって、著作権を常に明確に主張することの重要性はダーレスから学んだ教訓の一つとなった。

改稿の過程で、物語の細部にも変化が見られる。元版では主人公の狂気に至るまでの人生が詳細に描かれていたが、改稿版ではより簡潔になり、物語のテンポが良くなった。Nで始まるアザトースの別名やトゥクル金属といった細部も楽しめる要素として加わった。また、元版で登場した『ルルイェ異本』は改稿版では『グラーキの黙示録』に差し替えられ、キャンベル独自の神話要素が強調されている。

改稿版には「ジョイリー」への言及があり、これはC・L・ムーアの創造した処女戦士ジレルからの借用であると指摘されている。クリス・ハローチャ=アーンストはこの点から、ジレルもクトゥルー神話世界の住人となり得ると論じている。ジョイリーとユゴスの関係性は不明確だが、ムーアの作品集が1961年に英国で刊行されたことから、キャンベルがその影響を受けた可能性が考えられる。

  • エドワード・テイラー
  • ネヴィル・クローハン…画家
  • ヘンリー・フィッシャー…オカルト研究家
  • マイケル・ハインズ…秘密教団にいた人
  • ダニエル・ノートン

【舞台】

  • 1923年 ブリチェスター

1899年、ブリチェスターに生まれたエドワード・テイラーは、人とは少し違う視点で世界を見る少年だった。本を愛する普通の子供のようでありながら、常に他者とはずれた興味を示していた彼の特異性は、1918年の大学入学を機に顕著となる。

テイラーはやがて魔術を実践するカルトの中心人物となり、画家のネヴィルやオカルティストのヘンリーもその輪に加わった。しかし教団の存在が明るみに出ると、多くの仲間が放校処分を受ける。それでも親の遺産を持つテイラーは、魔術の研究に没頭し続けた。

彼の人生を決定的に変えたのは、ある無名の書との出会いだった。その書物からテイラーは、遠い星ユゴスで採掘される「トゥク=ル」という鉱石を使えば、脳を別の体に移すことで実質的な不老不死が得られると知る。

『ネクロノミコン』に記された甲殻蜥蜴の存在と、その前哨地にユゴスへの道があるという記述。『グラーキの目次録』に描かれた甲殻蜥蜴の姿。そして『ネクロノミコン』によれば、アザトートの隠された名前を唱えれば何かが起こるというが、その名は『グラーキの目次録』に記されているという。

マイケルを通じて知り合ったダニエルから、『グラーキの目次録』を受け取った。

そうしてテイラーはブリチェスターの前哨地へと向かい、塔の中へ入る。懐中電灯の光が到達しない不思議な壁を発見したテイラーは、そこがユゴスへの入口だと確信し、明かりの届かない闇の中へと踏み込んでいった。

彼が見出した先に待っていたのは、永遠の命か、あるいは計り知れない恐怖か——。

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