本作は1980年、”New Tales of the Cthulhu Mythos”に収録された。
- 語り手
- ヘレン・ラズボーン
- ジョン
- スーザン
【舞台】
- ニューイングランド
ニューイングランドの小さな海辺の村。夏の光が柔らかく射し込む宿の食堂で、私は彼女を初めて見た。朝食を取ろうとしたその瞬間、視線が交わり、私の心は静かに揺れ動いた。
彼女の名はヘレン・ラズボーン。手に小さな傷を負い、ハンカチを持っていないと私に話しかけてきた。私が自分のハンカチを包帯代わりに巻いてあげると、彼女は感謝の微笑みを浮かべた。夫を亡くし、二人の子供—ジョンとスーザンと共にこの村で静かな時を過ごしているのだと彼女は語った。
会話が弾む中、不意にジョンが海辺へと駆け出した。漂流物が多く打ち上げられる危険な岸辺。ヘレンが心配そうに目で追う間に、私は少年を止めに向かうことを申し出た。
「ジョンは活発な子で…」ヘレンの声には母親特有の愛情と心配が混じっていた。
海辺に辿り着くと、ジョンは古い木の板の上に立ち、何かを真剣な眼差しで探していた。声をかけた瞬間、腐食した板が砕け、彼は海中へと落ちていった。迷わず海に飛び込み、私は少年を抱き上げた。
岸に引き上げると、ジョンはすぐに目を覚ました。彼が言うには、夢で見たものを探していたという。「夢の中で見たものが、ここにあると思ったんだ」と少年は興奮した様子で説明した。
何を見つけたのか尋ねると、ジョンは右手を強く握りしめたままだった。「指が開かないんだ」と彼は困惑した声で言った。
私が手伝って少年の手を開くと、そこには奇妙な物体があった。光沢のあるゴムのような質感を持ち、どこか老人の顔を思わせる触手状の突起を持った小さな像。海水に濡れてなお、それは不思議な光を放っていた。
「これが欲しかったの?」と尋ねる私の声に、ジョンは頷いた。そのとき、波打ち際から私たちを見つめるヘレンの表情が変わった。驚きか、恐れか、あるいは—。
子供の好奇心が導いた偶然の発見。しかし、その小さな触手の像が放つ不思議な存在感は、この平穏な海辺の村に何か別の物語が眠っていることを暗示していた。