本作は1935年、WTの三月号に収録された。
リチャード・フランクリン・シーライト(Richard Franklin Searight, 1902-1975)は、アメリカの作家、電報オペレーター、後に会計士となった人物である。
シーライトは1924年11月号の『ウィアード・テイルズ』誌において、ノーマン・E・ハマースとロムとの共作で「瓶の中の脳髄(The Brain in the Jar)」を発表した。この作品は、生体脳を題材とした怪奇小説の先駆的作品として位置づけられている。
1930年代、電報オペレーターとして働いていたシーライトは、作家としての再起を図る。『ウィアード・テイルズ』誌の編集長ファーンズワース・ライトの助言により、H・P・ラヴクラフトに指導を仰ぐことになる。ラヴクラフトは、シーライトの才能に限界を感じながらも、熱心な添削指導を行い、その結果「暗恨」の掲載に成功した。
その後、シーライトはSF詩の分野にも進出を試み、『The Cosmic Horror』を1933年八月号の『ワンダー・ストーリーズ』誌に掲載するも、作家としての大きな成功には至らなかった。1940年代には会計士への転向を余儀なくされている。
『暗恨』については、ラヴクラフトによる加筆の有無が明確になっていない。作品のプロローグとして書かれた『エルトダウン陶片』の断章は、シーライトのオリジナル作品であることが確認されている。この『エルトダウン陶片』というタイトルは、ラヴクラフトの創造力を大いに刺激したとされるが、『ウィアード・テイルズ』誌での掲載時に、編集長ファーンズワース・ライトによってプロローグ部分が削除される結果となった。
- ウェッソン・クラーク
- マルタッキ…クラークの友人 故人
- ノンナ…マルタッキの妻 クラークと不倫
主人公のウェッソン・クラークは、親友マルタッキの妻ノンナと不倫関係にあった。マルタッキの死後、ノンナとの関係も公のものにできると期待していた。
そんな中、クラークは遺言書と共に「アル・トールの小箱」と呼ばれる遺品を受け取る。古美術に関心があるクラークは、この小箱が極めて稀少な品であることを即座に見抜く。
しかし、マルタッキの遺書には、この箱に手を触れずに保管するようにという明確な忠告が記されていた。
遺書の警告を無視したクラークは、執拗に箱の開封を試みる。しかし、見慣れぬ合金で作られた箱は、彼のあらゆる開封の試みを拒絶し続けた。
欲望と焦燥に駆られたクラークは、ついにペーパーナイフを手に取り、暴力的な開封を決意する。長い抵抗の末、箱は開かれたが、そこには何も入っていなかった…。