本作は1984年、「Crypt of Cthulhu 26号」のハロウィーン号に収録された。
この物語はスミスのプロットアイデアから派生したものであるが、それは「The Black Book」の中にあったのではなく私自身が見つけたもので、スミスの自筆原稿の裏に書かれていたものである。「執政官が悪魔を礼拝する不道徳な教団のメンバーを死刑にし、彼らの神の像を理由もなく粉々に砕いたとき、その神の怒りを招いてしまった。教団のメンバーは全員が処刑されたので、魔物は執政官に対して自分で復讐する必要があった」。私はこれにほんのわずかな修正をほどこして、主人公を執政官ではなく治安官に変えた。「七つの呪い」とあまりにも似すぎてしまうのを避けるためであった。
「イズドゥゴール」と「ヴース・ラローン」はスミスが造り出した名前である。彼がのちに「七つの呪い」として出版することになる物語のためのメモの中にあった。「七つの呪い」では最終的にこの名前は「エズダゴル」と「ラリバール・ヴーズ」に変えられていた。私はせっかくのいい名前が無駄になってしまうのが嫌だったのである。
「ツァトゥグアの子供」という概念を思いついたのはラブクラフトである。「ニューイングランドにて異形の悪魔のなせし邪悪なる妖術について」からの抜粋の中にそれが示されている。これはのちに「暗黒の儀式」に組み込まれることになる断片の一つである。HPLはツァトゥグアの子供の性別を特定することに失敗した。1934年に書いたバーロウへの手紙から抜粋され、その後「Planets and Dimensions」で発表された「系図」のなかで、スミスはズヴィルポグアがツァトゥグアの唯一の子供だとしている。また、その子供はツァトゥグアが地球に降りてくる前にヤークシュでシャタクという名前の女性の存在に生ませたという情報も加えられている。矛盾したデータはあるが、私はズヴィルポグアがオスだと推測している。
「ルトムネ」、「イラウトロム」、「ゾンギス・フラロール」、「ヤヌール」などの名前は、すべてスミスが造り出したもので、彼が将来使おうと思ってメモしてあった名前である。この物語に出てくる24の固有名詞のうち、私自身が造ったものはたった一つ「アビス」だけであることを申し上げておこう。
以上のような重要なことのほかには、本文の中の二つのあいまいな点を指摘し、それをどのように解決するかを述べるだけでいいだろう。第一の点は、隠遁者が彼の神への告白の中で、防護の呪文をかけるための材料の一つをわざと除外したのは自分であると言っているのに、そのすぐあとの行では、ヴーズ・ラローンの甥がラローンとの取引の際にごまかしたのだということになっている。有能な聖書批判家であれば、すぐにこの二重の説明はこの物語の前のバージョンの痕跡がうっかり残ってしまっているのではないかと疑うだろう。目のバージョンでは行為を行ったのは甥になっていて、あとで隠遁者イズドゥゴールが代替えとして登場したのではないかと考えるだろう。リンの原稿によく見られるのは、最初にある言葉を選択して、あとでもっと良い言葉を思いついたために変更したとき、最初の言葉を消さないでおくことである。ここでリンはあとでイズドゥゴールのエピソードを追加し、甥のことは完全に削除するつもりだったのに忘れてしまったのではないか、というのが私の推測である。
第二の点は「不恰好な黒い形のものが、岬の上で丸くなって悲鳴を上げている者の上に襲いかかり、水かきのついたかぎ爪で高く持ち上げた。そしてそれは永遠に姿を消し、2度と人の目に触れることはなかった」という箇所である。この中の「それ」とはどちらのことを指しているのだろうか。「黒い形」か、それとも「悲鳴を上げている者」か?文法的には、怪物を指しているというのがより自然であるが、内容を考えると、ヴース・ラローンが完全に失踪したことをいうべき箇所である。(特に、ズヴィルポグアがカーターの「ヴァーモントの森で見いだされた謎の文書」でもう一度人間の前に姿を現すことを考えるとなおさらである。この作品は「星から来て饗宴に列するもの」とうまい具合に対をなしている作品である)。とにかく、われわれはあれこれ考えてしまうのだ。
同じような悩みを与えかねないことは、「マルコによる福音書」第1522節以降にも見られる。そこでは最後に出てくる人物の名前がイエスの十字架を担がされた「クレネ人のシモン」であるにもかかわらず、そこに出てくる「彼は」、「彼の」という語はすべてイエスを指している。古い時代の翻訳者の中にはこれをモンティ・パイソンの「ライフ・オブ・ブライアン」風に解釈した者もいる。すなわちシモンは十字架で打ち倒された十字架にかけられてしまい、イエスの方は逃げていったというものである。「これ「私の」十字架じゃないんです。ひとのために運んでやっただけなんです……あのう、その人が来たら私を下ろしてくれませんか」。このような文法的なささいな過ちから、驚くべき異説が思いがけなく作られる。
- ヴース・ラローン
- イサヴォ…妻
- ゾンギス・フラロール
- イズドゥゴール…ズヴィルポグアの教団の唯一の生き残り
- ヌンギス・アヴァルゴモン…相続人の甥
- ズヴィルポグア
- ヴーアミ族
- カトブレパス
【舞台】
- コモリオム、エイグロフ山脈
コモリオムの街で、代々治安官の職を継ぐ名家があった。その27代目は、邪悪な魔物ツァトゥグァのカルトを徹底的に取り締まり、禁書の収集家としても知られていた。しかし、28代目の早すぎる死により、若きヴース・ラローンが突如29代目を継ぐことになる。
ヴースにとって治安官の仕事は形だけのものだった。彼の情熱は魔術の研究と艶やかな夜の遊びに向けられていく。そんな中、忘れられた神ズヴィルポグアを崇める秘密結社の存在が明るみに出る。
ある夜、ヴースは襲撃隊を率いてその結社の儀式場を急襲する。そこで彼は奇怪な神像を目にし、衝動的にそれを破壊してしまう。その瞬間から、ヴースの日常が狂い始める―。
夜な夜な、砕かれた神像の幻影に悩まされるヴース。魔術仲間のゾンギスに相談すると、「星から来た饗宴の参加者」と呼ばれる存在の名を告げられ、山奥に隠れ住む元教団員イズドゥゴールの存在を知らされる。
危険な山道を越え、ようやくイズドゥゴールの隠れ家にたどり着いたヴース。そこで彼は、ズヴィルポグアについての禁断の知識を授かる。その召喚方法、防御策、そして計り知れない危険性。
帰郷したヴースの心は、好奇心と恐れで揺れ動く。それでも彼は、禁忌の儀式の準備を始めるが…。