本作は3,030語の短編小説で、1920年11月16日に執筆された。初出は『ファンタジー・ファン』1934年6月号で、後にWeird Tales誌1938年2月号に再掲載された。単行本初収録はBeyond the Wall of Sleepであり、校訂版はDagonに、詳註版はThe Dunwich Horror and Othersに収録されている。
この作品は、ヒュー・エリオットの『Modern Science and Materialism』(1919年)に見出した概念を、ラヴクラフトが小説に仕立てあげたものと考えられる。エリオットの著書はラヵクラフトの初期の哲学的思考に大きな影響を及ぼしており、特に人間の知覚の限界や物質の構造に関する議論が本作に反映されている。この時期にラヴクラフトが記した『備忘録』の一部の項目は、エリオットの著書からの借用であると推測される。
作品の性格描写やイメージには、1920年初めにラヴクラフトが見た南北戦争の夢に由来するものがある。初稿では科学者の名前はヘンリー・アンスリーであったが、後に改稿された。「ティリンギャースト」と「クロフォード」はともに植民地時代のプロヴィデンスの富貴な家柄の名前であり、『チャールズ・デクスター・ウォード事件』でも言及されている。
1920年代、本作は Weird Tales誌やGhost Stories誌など複数のパルプ雑誌に持ち込まれたが、いずれも採用されなかった。最終的に『ファンタジー・ファン』誌での掲載まで14年を要することとなった。
- 無名の語り手
- クロフォード・ティリンガスト…科学に通じた狂人、痩せこけて肌は灰色、額に血管、髭は白く長い
- グレゴリー…使用人
- アップダイク夫人…使用人
【舞台】
- プロヴィデンス
クロフォード・ティリンギャースト、天才科学者にして現実の境界を超えようとする者。彼が開発した装置は、人類の知覚の限界を打ち破る可能性を秘めていた。
ある日、ティリンギャーストは親友である語り手を自宅の実験室へと招く。そこで彼が目にしたのは、「淡い異界的な色」、人間の目では捉えられないはずの紫外線の世界だった。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
実験が進むにつれ、語り手の目の前に恐るべき光景が広がっていく。これまで空虚だと思っていた空間に、水母のような不定形の物体が漂い始める。それらは、まるで実体のない幽霊のように、語り手の体をすり抜けていく。
現実と非現実の境界が溶け始める中、ティリンギャーストの実験はさらに奇怪な展開を見せる。彼らが踏み込んだ未知の領域で、人知を超えた存在との遭遇が待ち受けているのか。