本作は1932年、『ストレンジ・テールス』の10月号に収録された。
主人公のフィリップ・ハスティンは他の作品にも登場し、作者クラーク・アシュトン・スミスの写しと考えられている。
- フィリップ・ハスティン
- キュプリアン・シンカウル…ハスティンの親戚、彫刻家
- トルマン…書店の主人
- マータ・フィッツジェラルド…キュプリアンの彫刻のモデル
【舞台】
- サンフランシスコ
親戚の彫刻家キュプリアン・シンカウルに会うため、フィリップ・ハスティンはサンフランシスコを訪れる。まずは馴染みのトルマン書店に立ち寄ったハスティンは、オカルト趣味を知る店主の配慮で自由に店内を探索する。
ゴヤの奇妙な画集を手に取った瞬間、ページから飛び出すかのような怪物の絵に強烈な衝撃を受ける。単なる芸術作品とは思えない生々しさに、ハスティンは思わず本を落としてしまう。その後、気まずさも手伝って本を購入し、キュプリアンのアトリエへと向かった。
再会したキュプリアンは面影はあるものの、明らかに別人のように変貌していた。やつれた外見とは対照的に、その作品は驚くべき進化を遂げていた。グールや邪神といった神話の怪物たちを描いた彫像は、不気味なほどのリアリズムで迫ってくる。「深いところで学んだ」と語るキュプリアンの言葉には、得体の知れない影が潜んでいた。
アトリエで目にした彫像の一つは、書店で見たゴヤの怪物と不思議なほど酷似していた。「彼方からのもの」と名付けられたその作品には7匹の怪物と1人の少女がいた。そしてモデルとなったのは、裏部屋から現れた少女マータ。彼女の瞳には言葉にならない恐怖が宿っていた。
帰り際、ビルの下で待ち伏せていたマータはハスティンに切実な懇願をする。「キュプリアンは変わってしまった。あの彫像を完成させてはいけない」—彼女の警告を軽視したまま、主人公はホテルへと戻る。
その夜、記憶に残らない悪夢と覚醒後の幻覚に悩まされる主人公。意識の混濁を一気に覚ました電話の向こうには、取り乱したキュプリアンの声。マータが何者かに連れ去られたという緊急の知らせに、ハスティンは「彼方からのもの」が単なる芸術作品ではないという不穏な予感を抱き始める。