本作は1941年、WTの9月号に掲載された。
オーガスト・ダーレスは『ウィアード・テールズ』誌1926年5月号に掲載された『蝙蝠の鐘楼』でデビューし、同誌の代表的な寄稿者となった。
同年夏にH・P・ラヴクラフトとの文通を開始し、秋にウィスコンシン大学に入学している。クトゥルフ神話創作が盛んだった時期の作品として『羅睺星魔洞』『奈落より吹く風』が知られており、独自の神話解釈で注目を集めた。1931年にはスコラーと共同で執筆した『湖底の恐怖』が、ロング作品との類似性や既存の神話要素の使用方法について編集長ライトから指摘を受け掲載が見送られている。
一方で1932年8月号では『羅睺星魔洞』が掲載された。この出来事を契機に、ラヴクラフトはアザトートやナイアルラトホテップなどの神格や設定の相互活用を提案したが、ダーレスは1937年のラヴクラフトの死去まで神話作品の執筆を控えめにしていた。
1930年の大学卒業後は故郷のウィスコンシン州ソーク・シティーを拠点とし、「サク・プレイリー物語」や「ソーラー・ポンズ」シリーズの創作に力を注いだ。
ラヴクラフトの死後、旧神と旧支配者の対立を主題とした『ハスターの帰還』を1939年3月の『ウィアード・テールズ』誌で発表し、続いて1940年に『湖底の恐怖』を『ストレンジ・ストーリーズ』誌の10月号に、同年『サンドウィン館の怪』を『ウィアード・テールズ』誌11月号に発表し、神話創作を本格化させた。1941年9月の『ウィアード・テールズ』誌に掲載された『幽遠の彼方』は、この時期を代表する作品として評価されている。
- トニィ…ミスカトニック大学付属図書館の館長助手
- ジョサイア・アルウィン…祖父
- フローリン…従兄弟
- ハック
- リアンダー…叔父
【舞台】
- 北部ウィスコンシン州
図書館で働く私のもとに、北部ウィスコンシンに住む従兄弟のフリーリンから切迫した手紙が届いた。祖父のジョサイア・アルウィンが突如として奇妙な様子を見せ始めたという。黒い瞳を持つ頑健な老人である祖父は、どこか年齢を感じさせない不自然さがあった。
従兄弟に会うため駅に降り立ち、道中で語られる話は、書斎に籠もりきりとなった祖父の異変、夜な夜な響く得体の知れない音楽、そして漂う奇妙な臭気など、この屋敷で起きている不可解な出来事の数々だった。
1850年、インスマスの船乗りだった大叔父が建てたという屋敷は、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。窓のない書斎で暮らす祖父に会うと、彼は私だけに語るように、大叔父の残した謎めいた書き物を取り出した。そこには「イタカ」「ロイガー」「ハスター」という不吉な名前と共に、決して超えてはならない境界線についての警告が記されていた。
アルウィン家に隠された秘密、そして祖父の異変。私はまだ知らなかった…。