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嵐の前に

嵐の前に

Before the storm

ラムジー・キャンベル グラ2
概要
登場人物
あらすじ

『Fantasy Readers Guide』の第二号に初めて掲載された本作だが、その執筆は遥か以前に遡る。キャンベルは1964年8月16日付の書簡でダーレスに完成を伝えており、公表までに16年もの歳月を要したことになる。

S・T・ヨシの見解によれば、キャンベルのラヴクラフト模倣期は『島にある石』で終わったとされる。この説に従えば、本作はすでに初期の作品群には属さない。キャンベル自身の証言では、本作にはウィリアム・S・バロウズの影響が色濃いという。迷宮の神アイホートと契約を結んだ主人公が目にする光景は悪夢的で、バロウズの作風を彷彿とさせる。

一方、ダーレスはバロウズの作品を嫌悪しており、1966年2月3日付のキャンベル宛書簡で『裸のランチ』を酷評している。キャンベルはダーレスを深く敬愛しつつも、「多くの点で意見が相違した」と回顧している。

キャンベルは1966年2月20日の手紙でダーレスのバロウズ批判に反論し、自身が最も愛好するバロウズ作品は『ソフトマシーン』だと述べている。本作で壁面に浮かび上がるTRAKという文字列は、『ソフトマシーン』からの引用と推測される。

バロウズがモロッコのタンジェに滞在していた頃、キャンベルは短期間ながら彼と文通し、本作について語り合ったという。バロウズもクトゥルー神話に通じており、『デッド・ロード』ではティンダロスの猟犬に言及している。また、ラヴクラフトの遺著管理者ロバート・バーロウがメキシコシティ大学で教鞭を執っていた時期、バロウズは彼の生徒だった。バロウズはバーロウ教授からマヤ文明を学び、その経験が『ソフトマシーン』に反映されている。

1967年、ダーレスはキャンベルにアーカムハウスからクトゥルー神話のアンソロジーを出版する計画を告げた。しかし、キャンベルは本作の原稿をダーレスに送ることはなかった。1967年8月14日付のダーレス宛書簡で、キャンベルは本作を「つまらない」「改良の方法が思いつかない」と自己評価しており、自信作ではなかったことが窺える。

クトゥルー神学の視点から見ると、本作はアイホートの初出として重要である。『フランクリンの章句』の方が先に発表されたが、執筆順では本作が先行する。2010年に発表された『The Seven Days of Cain』でも、キャンベルは再びアイホートに言及している。この長編では、バロウズ的な悪夢的要素は薄れ、代わりに崩壊寸前の現実に対する不安を緻密に描写することで、キャンベルの真価が遺憾なく発揮されている。かつて改良の糸口が見出せないと嘆いたキャンベルだが、約50年の時を経て、その解答を見出したかのようである。

  • ウィーダル
  • ロバート

灼熱の太陽から逃れるように、一人の名もなき男が税務署に駆け込んできた。明らかに正気を失っており、署内の人々とまともに意思疎通を図ることもできない。職員たちが男の様子を確かめようとする中、物語は過去へと遡る。

かつてこの男は「ソサエティ」と呼ばれる集団に関わるようになり、やがて神秘主義の世界へと足を踏み入れていった。彼の人生を大きく変えたのは、「アイホート」として知られる旧き神との契約だった。この取引により、男は意識を他の肉体に移し替えることで宇宙を旅する能力を得た。しかし、その代償として彼の精神は徐々に崩壊していったのである。

宇宙の果てを巡る驚異の旅。数え切れないほどの肉体を乗り換え、想像を絶する光景を目にした男。だが、人知を超えた体験は、彼の精神を蝕んでいった。果てしない宇宙の広がりと、そこに潜む名状しがたき存在の恐ろしさ。人間の理性では到底理解し得ない真実に触れた男は、ついに正気を失ってしまう。

そして現在。狂気に冒された男は、自らの体験を誰かに伝えようともがくが、もはや言葉すら発することができない。税務署の人々は、男の異様な様子に困惑するばかりだったが、時期に決断を迫られる…。

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