本作のキャンベルが1960年に執筆した『修道院の函』が基になっていて、大筋は同じくバイアティスを解き放つという要素が含まれていた。初期の原稿は米国のマサチューセッツ州を舞台にしていたが、ダーレスは英国にするように助言するが、これは英国でのクトゥルーの伝統を強調するマーケティング上の理由もあった。
キャンベルはダーレスの提案に従い、セヴァン・ヴァレーを物語の舞台に選び、地元の伝承を調査した。物語に登場するバークレーの蟇に関するくだりは、一九世紀末に刊行されたGloucestershire Notes and Queriesの記録に基づいていて、バークレー城の井戸から発見された巨大なヒキガエルに関する伝承が元になっている。バークレー城や現地の聖マリア教会に残るヒキガエルの彫刻は、物語中で言及される史跡と関連している。しかし、セヴァン・ヴァレーには僧院がなかったので、題名も『城の部屋』に変更された。
『修道院の函』に登場するバイアティスは、キャンベルのオリジナルではなく、ロバート・ブロックの「星から訪れたもの」から輸入したもの。リン・カーターもバイアティスに関心を寄せ、キャンベルの作品発表よりも前に言及していた。
ダーレスはキャンベルの初期作品に対して慎重な指導を行い、改稿において具体的なアドバイスを提供していて、例えば、城の部屋への降りる際に使用される梯子の表現など、ダーレスの的確な助言が反映されている。また、セヴァン川周辺のローマ時代の遺構や粗陶器なども、ダーレスの提案を受けて作品に取り入れられた。
- パリー
- スコット
- ギルバート・モーリー
- クーパ
- ノートン
- バイアティス
【舞台】
- バークリイ
ブリテン島の地下深くに封じられていた魔物バイアティス。その封印が解かれたのは、ローマの軍勢が押し寄せた時のこと。以来、「バークリイの蟇」の異名で恐れられ、その姿を見た者の悪夢に住まうこととなる。
18世紀、野心に満ちた魔術師ギルバート・モーリイ卿の手によって、バイアティスは再び地上へと引きずり出される。旅人の魂を糧とし、その力で他の邪神たちの思念を受け取る恐るべき存在。だが、やがてモーリイ卿の姿は消し、バイアティスは孤立してしまった。
時は流れ、20世紀。好奇心旺盛な青年パリーは、何気ない調査の中で「バイアティス」という名に出会う。大英博物館の古文書に記された、セヴァン谷の伝説の魔物。その記述に魅入られたパリーの運命が、大きく歪み始める。
友人スコットの懸念をよそに、パリーはセヴァンフォードの古城跡へと足を踏み入れる。荒廃した城壁の影に潜む、かすかな階段の痕跡。それは地下室への入り口。パリーの目の前に広がるのは、知ってはならない世界への扉。
封印された恐怖と、それを解き放とうとする人間の好奇心。セヴァン谷に眠る秘密が、今、目覚めようとしていた―。