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ハワード・フィリップ・ラヴクラフト 全集4 新訳5
概要
登場人物
あらすじ

本作は3,440語の短編小説で、執筆時期は1926年2月と推定される。初出はTales of Magic and Mystery誌1928年3月号で、後にWeird Tales誌1939年9月号に再掲載された。単行本初収録はThe Outsider and Othersであり、校訂版はDagon and Other Macabre Talesに、詳註版はAnnotated H.P. Lovecraft、The Call of Cthulhu and Other Weird Stories、Pickman’s Modelに収録されている。

作品には自叙伝的要素が散見される。舞台となるマンハッタンの西14番通り317番地の褐色砂岩造りの建物は、1925年8月から10月までジョージ・カークが住居およびチェルシー書店として使用していた。ラヴクラフトは書簡中でこの建物を「ニューヨークの「無垢の時代」の典型的なヴィクトリア朝風家屋」と表現し、その豪奢な内装を詳細に描写している。

物語に登場するムニョス博士のモデルは、ラヴクラフトが書簡で言及している「州の上院議員であり、かの有名なオールバニーのClean Books billのスポンサーでもある、とても著名なラヴ博士」と推測される。また、作中のアンモニア吸収式冷房装置にも自叙伝的要素が見られ、ラヴクラフトの伯母との書簡のやり取りに関連している。

物語の着想源は一般に憶測されるエドガー・アラン・ポーの『ヴァルドマアル氏の病症の真相』ではなく、実際にはアーサー・マッケンの『白い粉薬の話』であることがラヴクラフトの書簡から明らかになっている。マッケンの作品では、不運な学生が飲んだ薬により「まるで煮えくりかえった瀝青みたいに、ブクブク油ぎった泡を吹きながら」溶けていく描写があり、本作との類似性が見られる。

1926年3月、Weird Tales誌は本作を没にしたが、これは『最愛の死者』の時と同様、物語の陰惨な結末が検閲を招くことを危惧したためと推測される。後に本作はTales of Magic and Mystery誌に18ドル50セントの稿料で掲載された。この掲載は、ラヴクラフトが1927年末頃に同誌に送った8つの短編のうちの1つであった。

  • 語り手
  • ムニョル医師
  • エレーロ…女将さん
  • エステバン…女将の息子
  • 老トレス先生…ムニョルの師 作中既に死んでいる

1923年の春、なんでもないありふれた下宿屋。そこに住む無名の作家は、退屈な日々を送っていた。しかし、この平凡な日常は、やがて想像を絶する恐怖への序章となる。

下宿人のほとんどが下層市民の中、唯一異彩を放つのがムニョス博士だった。

引退した医師であるムニョス博士。その部屋には常に奇妙な寒気が漂う。アンモニア吸収式冷房装置を使い、室温を極端に低く保つその習慣は、18年前の病気の後遺症によるものだと噂されていた。

ある灼熱の夏の日、博士の冷房装置が故障する。語り手は修理を手伝おうとするが、そこで彼は、人知を超えた恐怖の真相に直面することになる。

なぜ博士は、あれほどまでに低温を求めるのか。その姿を見たことがないのは、単なる偶然なのか。そして、冷房装置の向こう側に潜む、想像を絶する真実とは—。

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