不知火

不知火

The Star Pools

真5 A・A・アタナジオ
概要
登場人物
あらすじ

本作は1980年に刊行された。
ニューヨーク近郊とハイチを舞台に、アタナジオが創作したクトゥルフ神話の物語。SF・ホラー両分野で知られる彼のクトゥルフ神話第二作にあたり、第一作は未だ和訳されていない。

初作品では邪神調査を担う研究機関が描かれ、この設定はブライアン・ラムレイによる「ウィルマース財団」と同時期に生まれた革新的要素として注目されている。本作では旧支配者信仰とヴードゥー教が混ざり合った世界観が特徴的で、さらにギャングたちも物語に関わってくる

  • ヘンリー・イーストン…石で怪我をしてから体が変化している
  • マイケル・ラプフ…ヘンリーの相棒
  • ガスト―…ギャングの長
  • デューク・パーマリー…ガストーの手下
  • ハイカラ・チャッキー・ワッツ…ガストーの手下
  • ヴィンス・パントゥッチ大尉
  • オートウェイ…ヘンリーを保護したカルティストの老人

【舞台】

  • ハイチ

ヘンリー・イーストンは小川の中にしゃがみ込み、足の激痛に耐えていた。彼はついさっき、ガストーとの取引に使うはずだったヘロインを小川の岩の間に隠したところだった。パートナーのマイク・ラプフにも言わずに。そして隠す過程で、彼の足は鋭い石で深く切れていた—単なる偶然の怪我のはずだった。

朦朧とする意識の中、ヘンリーは何とか岸にたどり着き、車に乗り込んだ。医者である友人がいるワシントンへ向かう途中、痛みと失血で彼は道端で意識を失った。

ヘンリーが次に意識を取り戻したとき、彼は終夜灯の灯る無限の廊下をさまよっていた。何日も、何週間も歩き続けているような感覚。やがて彼は、自分が動いているのではなく、周囲の景色が流れていることに気づいた。その認識とともに、彼の精神に恐ろしいヴィジョンが流れ込んだ。

廊下の果てに到達したヘンリーは、不思議な外の世界へ出た。そこは白い光に満ちた異界。海も空も、すべてが白く輝いていた—ただひとつ、太陽だけが黒く、光を吸い込むように存在していた。

海の方から小舟に乗った人物が近づいてきた。その顔は奇妙に歪み、白痴のような表情を浮かべている。「耳を閉ざせ、闇を広げろ、そうすれば指が伸びる」—意味不明な言葉とともに、ヘンリーは再び意識を失った。

一方そのとき、セント・ヴィンセント病院では、マイク・ラプフが待っていた。ヘンリーと共に引き受けた、危険な仕事に頭を悩ませていた。ガストーにヘロインを渡す期限は迫っている。しかし相棒のヘンリーが意識不明になり、薬の行方も分からなくなっていた。見つからなければ、ガストーの手下に命を狙われるのは時間の問題だった。

担当医師から聞いた話は奇妙だった。ヘンリーは臨床的には無意識状態なのに、心電図は覚醒している人間と同じ反応を示している。そして最も不可解なのは、足の傷が一向に塞がらないことだった。

マイクがヘンリーのそばに立ったとき、突然ヘンリーは目を開けた。
「ヘロインはどこだ?」マイクは焦りを隠せなかった。

「ガストーが待ってる。見つからなければ俺たち二人とも終わりだ」
ヘンリーは隠し場所を教えず、突然窓の外を指さした。

「奴らがもう来ている」

マイクの車の傍らに、銃を持った男が待ち伏せしているのが見えた。ガストーの手下だ。マイクが確認に向かっている間、ヘンリーは看護師を呼び、病院を出る決意をした。彼の頭の中には小川で隠したヘロインと同時に、あの「石」の存在があった。足の傷から滲み出る黒い物質の源であり、彼を白い世界と黒い太陽の夢へと導いたものを、彼は取り戻さなければならなかった。

彼の足から滲む黒い影は病室の白さを少しずつ侵食していた。ヘンリーは完全に覚醒してはいなかった—彼の現実は、あの黒い太陽の下で告げられた謎の言葉によって、徐々に書き換えられていたのだ。

そしてマイクは知らなかった—彼が必死に探し求めるヘロインの隠し場所が、同時に友人を変貌させた何かの在り処でもあることを。

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