本作は10,830語の中編小説で、1933年の8月21日から24日かけて執筆された。初出は1937年WTの1月号、単行本初収録はOで校訂版はDH、詳註版はAn2とTDに収録されている。
物語には、H.B.ドレイクの『The Shadowy Things』という小説が影響を与えており、その作品は催眠術と精神の移動に関する非凡な能力を持つ男性に焦点を当てている。
ラヴクラフトの『備忘録』にもあらすじが残っていて、以下引用する。
「男に不気味な魔道師の友人がおり、この友人に支配される。己の魂を守るために魔道師を殺し、死体を古い地下室の壁に塗り込めるが——しかし——その死せる魔道師は(死体に留まる魂についての奇怪なことを話したことがある)男と肉体を取り換え……男は地下室内の意識ある死体となってしまう」。
もう一つ、物語における異なる性別の人物同士の精神交換の概念は、ラヴクラフトが所有していたバリー・ペインの『A Exchange of Souls』からの影響を受けた可能性がある。この先行作品では科学者が機械を使用して妻との魂や人格の交換実験を試みるが、実験中に男性の肉体が死亡し、実質入れ替わった妻も死んでしまう、のみならず機械も損傷してしまうため、妻の体になった科学者がその後どうするのかが儚く描かれている。
ここからさらに精神交換という話は進展し、『時間からの影』では、異なる生物間、人類と異星人の精神交換が描かれることになる。
エドワード・ダービイの生涯には、ラヴクラフト自身の幼少期の歪んだ反映が見られますが、そうなるとダービイの描写にはいくつかの矛盾がある。例えばアプトンは神童としてダービイを描写しているが、これがラヴクラフト自身をモデルにしているとするならば、謙虚な彼の性格とは一致しない。神童という言葉は、アルフレッド・ギャルピンや、クラーク・アシュトン・スミスの方が当てはまり、また、髭を伸ばすにも薄いという描写はフランク・ベルナップ・ロングの特徴でもあるため、ダービィの人物像は何人かの作家が混ざった者だと考えられる。
しかし、アセナスについてはソニアがモデルになっていると思われる。ダービイのアセナスとの結婚は、ラヴクラフト自身とソニア・グリーンとの関係を反映しており、特にソニアは結婚においても、プロヴィデンスからの引っ越しについても主導したことが類似している。他にもダービイの父がアセナスへ結婚を反対していることも、ラヴクラフトの叔母がソニアとの結婚に対して反対していたという類似性がある。
本作中のアセナスに関する記述には誤解を招く可能性があり、アセナス(および内に宿るエフレイム)の男尊女卑のような発言は、ラヴクラフトの見解ではない。ラヴクラフト自身が過去に女性に関する偏見を表明したことはあるが、1930年代にはより分別のある態度を持つようになっている。
- ダニエル・アプトン
- エドワード・ダービイ・アプトン…ダニエルの子供
- アセナス・ウェイト…エドワードの妻
- イフラム・ウェイト…アセナスの父
【舞台】
- アーカム
アプトンはエドワード・ダービィを射殺した。その裁判で、彼は幼なじみのエドワード・ダービィについて語り始める。兄弟のような絆で結ばれた二人の関係は、誰もが羨む程の深いものだった。
しかし、運命の歯車は思わぬ方向へと回り始める。ダービィがインスマス出身のアセナス・ウェイトと出会い、結婚したのだ。一見、幸せな門出に見えたこの結婚が、やがて恐ろしい悪夢の始まりとなる。
結婚後、ダービィの様子が急変する。かつての面影は消え失せ、狂気に取り憑かれたかのような異常な行動を取り始めた。ある日、アプトンは驚くべき内容の電報を受け取る。狂乱状態のダービィが、車の運転さえ忘れてしまったというのだ。
一方、新婦アセナスは人目を避けるように家に引きこもり、彼女の姿を見かけることは、もはやなくなっていた。
アプトンは次第に、全ての謎の根源がアセナスの家系にあることに気付き始める。インスマスという町、ウェイト家の血筋—そこには、人知を超えた何かが潜んでいるのではないか。
友人を救うため、そして真実を明らかにするため、アプトンは恐るべき謎に立ち向かう。しかし、その探求は彼を想像を絶する恐怖の渦中へと引きずり込んでいく—。