本作は22,150語の中編小説で、1931年11月から12月3日に執筆された。その後、書簡として出版され、1936年にはペンシルベニア州エヴァレットのVisionary Publishing Co.から刊行された。縮約版はDHに収録され、詳註版はNecronomicon Pressからブックレットとして1994年に初版、1997年に新版が出版され、CCにも収録された。
この小説は、『狂気の山脈にて』がWTで没になり、パナトム社が作品集を断った不運な時期に誕生した。1931年秋、古びた廃港を再訪し、「研究室的実験」を試みることを決意。四つの草稿を書き、捨てられた後、最終的には慣れたスタイルで書かれたが、満足していなかった。書き終えた後、ダーレスに「実験は良い結果を残さなかった。採用される見込みがないため『インスマスを覆う影』を公にはしない」と述べる手紙を送った。
物語は異種族との混交・性行の危険性を警告し、『故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実』のプロットを拡張。インスマスの地名は1920年に執筆された『セレファイス」』で生まれ、ユゴス星のソネットでも使用。インスマスはニューイングランド近郊と考えられる。
物語には三つの主要な影響元があり、アーヴィン・S・コップの『魚頭』やロバート・W・チェンバーズの短編小説『The Harbor-Master』からの影響が見られ、この物語では混血が一回のみ生じ、共同体や文明全体に影響は及ばない。共同体に範囲が及ぶアイデアはアルジャーノン・ブラックウッドの「古えの妖術」から得た可能性があり、この小説では町の住民が夜になると猫に変身する描写がある。ザバック・アレンというキャラクターはハーバード・ゴーマンの作品から影響を受けており、ザドックと同じく酒に溺れたキャラクターとして描かれ、さらにザドックの生没年は、ラブクラフトの作家仲間、ジョナサン・E・ホーグと全く同じである(1831年〜1927年)。
オルムステッドの性格と特徴はラブクラフトに似ているため、モデルは自身なのかもしれない。また、彼の最後の呟きは、旧約聖書の詩編第23番のパロディだと思われる。
ちなみにオーガスト・ダーレスは覚書を読む前だったため、『永劫の探究』の中で『インスマスを覆う影』の主人公の姓をウィリアムスンとしている。
・ロバート・オルムステッド…語り手の「僕」
・オーベット・マーシュ…深きものと取引をした人
・ジョー・サジェント…インスマスのバスの運転手
・アンナ・ティルトン…学芸員
・ギルマン・ハウスのオーナー
・ファースト・ナショナル・チェーンの飲食店の青年…イプスウィッチ出身のいい人
・ザドック・アレン…96歳の老人 マーシュ船長の代を生きていて、インスマスの真相を知っている人
・ワラケア…離島の酋長、マーシュ船長と交流した人、魚の血は入っていない
・バーナバス・マーシュ…マーシュ船長の孫
・オネシフォラス…バーナバスの父親
・E・ラファム・ピーバディ…アーカム歴史協会の学芸員
・ジェイムズ・ウィリアムスン…主人公の祖父
・イライザ・オーン…主人公の祖母
・ベンジャミン・オーン…主人公の曽祖父、イライザの父
・ダグラス叔父…主人公の叔父 長男 拳銃自殺
・プトトヤ=ライ…主人公の祖母の祖母 八万年生きている
1927年の冬、マサチューセッツ州の片隅にあった港町インスマスが、政府の秘密裏の作戦により爆破され、地図上から姿を消した。
時は遡り、夏。ロバート・オルムステッドは成人祝いに一人旅をしていた。目的地のアーカムへ向かう汽車のチケットが手に入らず、やむを得ずバスでの移動を選んだ彼は、その途中、インスマスという町に立ち寄ることになる。
かつては繁栄を誇ったこの港町も、今や周辺の住民から忌み嫌われる存在だった。流行病で住民の半数以上を失って以来、町には呪いがかかっているという噂が広まっていたのだ。さらに不気味なことに、インスマスの住民たちは奇妙な容貌をしていた。手足は不釣り合いなほど大きいのに、耳や鼻は未発達で、その姿は人というより魚や蛙を連想させた。
町の文化に触れ、不安と好奇心が入り混じる中でバスに戻ったロバート。しかし運転手から突然、バスの故障を告げられる。思いがけず、この不気味な町で一夜を明かすことになってしまった彼は、町にある唯一のホテルに泊まることを余儀なくされる。
果たしてロバートは、この得体の知れない町で、無事に朝を迎えることができるのだろうか…。