本作は2,800語の短編で、1921年2月28日に執筆された。初出はThe Galleon(1935年7・8月合併号)で、後にWT(1939年3月号)に再掲された。単行本初収録はBWSで、校訂版がD、詳註版がTDに収録されている。
『イラノンの探究』は、ラヴクラフトのダンセイニ風作品の中でも最高傑作の一つとされている。しかし、主人公イラノンが自身の出自を知って自死に至るという結末には、階級的スノビズムの傾向が見られるという指摘もある。
ラヴクラフトは当初、この作品を自身が編集する「保守派」に掲載しようと考えていた。しかし、「保守派」の次号発行が1923年3月まで遅れたため、それまでにラヴクラフトは掲載を見合わせる決心をしたと思われる。
興味深いことに、この作品はWTには採用されず、ラヴクラフトがThe Galleonに送るまでは他の雑誌にも投稿されなかったようである。このことは、ラヴクラフトがこの作品の扱いに慎重だったことを示唆している。
- イラノン
- ロムノド
【舞台】
- テロス
- オオナイ
イラノン、遥か彼方の故郷アイラを求めて旅を続ける若き歌うたい。彼の足取りは、冷たい御影石の都テロスへと向かう。
自らをアイラの王子と称するイラノンの言葉に、美を忘れたテロスの民は冷ややかな視線を向ける。彼らはイラノンに、靴直しとして生きることを強いる。
そんな中、イラノンはロムノドという少年と出会う。美と歌に満ちた遠い土地を夢見る者同士、二人の魂は共鳴する。
オオナイ、リュートと舞踏の都。ロムノドはそこにイラノンの求めるアイラを見出せるかもしれないと考える。半信半疑のイラノンだったが、希望を胸に二人は旅立つ。
オオナイはアイラではなかった。しかし、イラノンの歌と竪琴の才は称賛を浴び、ロムノドは酒の誘惑に溺れていく。時は流れるが、イラノンの姿は少しも衰えることなく、アイラへの夢は色褪せない。
この物語は、理想の地を求める魂の旅路を描く。彼が探し求める真のアイラとは何なのか。そして、永遠の若さを持つイラノンの正体とは—。
時の流れに抗い、失われた美を追い求める者の運命が、今明かされる。