本作は3,350語の短編小説で、1920年12月に執筆された。初出はNational Amateur誌1919年7月号(実際の発行は1921年夏)で、その後Weird Tales誌1924年1月号および1937年3月号に再掲された。単行本初収録はO、校訂版はH、詳註版はAn2とCに収録されている。
この作品は、「ミスカトニック」という用語と架空都市アーカムが初めて登場した点で重要である。アーカムの位置については諸説あり、マサチューセッツ州中央部説と東海岸のセイラムをモデルとする説がある。「ミスカトニック」はフーサトニック川から着想を得たと考えられている。
ラヴクラフトは本作で、ピガフェッタの『コンゴ王国』に関する記述に誤りを犯しているが、これは二次資料からの引用によるものと推測される。
また、この物語はニューイングランドの方言が初めて大々的に使用された作品でもある。ジェイムズ・ラッセル・ローウェルの『ビグロー・ペーパーズ』から影響を受けたとされるこの方言の使用は、登場人物の異常な高齢を暗示する効果をもたらしている。
作品序盤の、初期ニューイングランド人の禁欲的生活とそれがもたらした神経症に関する描写は、ラヴクラフトのナサニエル・ホーソーン論を彷彿とさせる。
興味深いのは、ラヴクラフトが再録に際して行った修正である。特に注目すべきは、老人の初登場時の描写から、結末を暗示する「血液の染み」への言及を削除し、後半部分に移動させた点である。この編集作業は、物語の緊張感と謎めいた雰囲気を高める効果をもたらしている。
- 語り手…ボストン出身
- 老人
【舞台】
- 1896年11月 アーカム
ある日、家系調査のためニューイングランドを巡っていた語り手は、突然の豪雨に見舞われる。避難先として選んだのは、ミスカトニック渓谷にある朽ちかけた農家だった。
無人と思われた家に踏み込んだ語り手だが、程なくして二階から現れた住人に驚かされる。その老人は、年齢を感じさせる容貌とは裏腹に、驚くほどの血色の良さと逞しい体つきを持っていた。
さらに驚いたのは、老人の話す言葉だった。語り手の耳には、失われたと思われていた極端なニューイングランド方言として響く。
老人は鋭い観察眼で、語り手がテーブルの上の古書を調べていたことを指摘する。それは驚くべきことに、1589年フランクフルト版の『コンゴ王国』という希少な本だった。
本の特定のページ、人肉嗜食のアンジック族の肉屋を描いた第十二図が、頻繁に開かれた形跡があった。老人は、セイラムの船乗りから入手したこの書物について語り始める。
そして、徐々に聞き取りづらくなっていく田舎訛りで、その絵が秘める邪悪な力について熱心に語り始めたのだ。
語り手は、この一見何の変哲もない農家で、想像もしなかった恐怖の扉が開かれようとしていることを、まだ知る由もなかった。古書が秘める禁断の知識、そして老人の不気味な態度。これらが絡み合い、やがて語り手を未知なる恐怖の渦中へと引きずり込んでいく—。