本作は1957年、『サターン』の5月号に収録された。
ウィルバーは、ラヴクラフトの別作品『闇に囁くもの』に登場するヘンリー・エイクリイの親族。
- わたし
- ウィルバー・エイクリイ…従兄弟
【舞台】
- 1924年 アーカム
従兄弟ウィルバーの死から一ヶ月後、私は彼の遺した家に引っ越した。1924年4月16日、春の陽気が漂うなか、この200年の歴史を持つ古い家に足を踏み入れた。ウィルバーは1921年から住み始め、家を大幅に改修していたが、その様子は奇妙だった。建物の一部は時代のままに放置され、古びた壁紙が剥がれ落ちている。対照的に、屋根裏の破風の部屋だけは異様なほど入念に作り込まれていた。
破風の部屋に初めて足を踏み入れた瞬間、背筋に冷たいものが走った。丸窓には曇りガラスがはめられ、午後の陽光さえも歪ませていた。生前、ウィルバーはこのガラスを「レンのガラス」や「ヒヤデスで作られたもの」と呼び、この部屋で多くの時間を過ごしていたという。
奇妙なことに、この部屋の家具を他の場所に移動させようとすると、必ず何かがうまくいかない。結局、すべての家具は元の場所に戻さざるを得なかった。まるでその場所に縛り付けられているかのように。
引っ越しから一ヶ月が過ぎた頃、真夜中に不気味な音で目を覚ました。猫のような何かが玄関をひっかく音。数日後には窓に何か大きなものが這い上がるような音。しかし正体は見えず、やがてその音が破風の部屋の窓から発していることに気づいた。
叔母から引き取ったリトル・サムという黒猫は、夜になると神経質に耳をピンと立て、何かを察知したように身を低くする。そして決まって破風の部屋からは離れ、やたらと外に出たがった。
ある日、屋根裏の隠し引き出しからウィルバーの死の一ヶ月前に書かれた手紙を発見した。私宛ての指示が3つ記されていた。
「特定の書類は即刻焼却すること。書物はミスカトニック大学に寄贈すること。そして、破風の窓は必ず破壊すること。」
震える手で、指示された場所から書物を取り出すと、そこにはヘンリー・エイクリイの著作や、革表紙の古ぼけた魔導書の数々が並んでいた。ページをめくると、「ヒヤデス」といった単語が目に飛び込んでくる。そのたびに、説明のつかない不安と恐怖が私の心を締め付けた。
私は破風の部屋に立っていた。ウィルバーは何を見ていたのだろう。そして今、同じ何かが私を窓の向こう側から覗いているのではないか。破風の窓を壊すべきか、それとも——ウィルバーのように、向こう側の世界を覗くべきか。