
【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション2』│収録作品・購入方法まで紹介
はじめに
『クトゥルー神話傑作選2』は、H・P・ラヴクラフトによるネクロノミコンとその著者アブドゥル・アルハザードをテーマとした作品群を集めた短編集。
「無名都市」「猟犬」「祝祭」「ピックマンのモデル」「『ネクロノミコン』の歴史」「往古の民」「ダンウィッチの怪異」「アロンゾ・ダイパーの日記」の8編が収録されている。
この魔道書の創生にまつわる作品を、ラヴクラフトによる執筆順・作中設定としての成立順に追えるよう編集されており、現代風の翻訳で読みやすさが向上している。
収録作品リスト
- 「無名都市」
- 遥かアラビア砂漠の彼方にある無名の都市を、勇敢な考古学者が目指す。
伝説的詩人アブドゥル・アルハザードの夢に現れた場所と同じ廃墟に足を踏み入れると、異様に低い天井と非人間的な構造に動揺する。
身をかがめながら探索を続けるうち、地下の古代寺院で不気味な装飾の箱を発見する。
真実を求める探究心から蓋を開けた瞬間、考古学者の運命と人類の認識が大きく変わる。
砂漠に眠る古の都市が秘めた真実と、かつて住んでいた得体の知れない種族の正体とは。
- 遥かアラビア砂漠の彼方にある無名の都市を、勇敢な考古学者が目指す。
- 「猟犬」
- 倦怠に満ちた日々を送る語り手と友人セント・ジョンは、墓荒らしという禁忌の行為に刺激を見出していた。
道徳の境界を超え、死者の眠りを妨げることに快感を覚える二人。しかし500年の時を経た古墓から持ち帰った翼の生えた犬の魔除けが、彼らの運命を狂わせる。
家に響く羽ばたき音、夜の闇に轟く巨大な猟犬の遠吠え。
やがてセント・ジョンが何者かに襲われ命を落とし、最期に魔除けについて語る。親友を失った語り手を待ち受ける運命とは。
500年の時を超えて追いかける”何か”の正体とは。
- 倦怠に満ちた日々を送る語り手と友人セント・ジョンは、墓荒らしという禁忌の行為に刺激を見出していた。
- 「祝祭」
- クリスマスの季節、語り手は古き町キングスポートを訪れ、雪に覆われた墓地を抜けて年代物の家に向かう。そこには変わらない祖父母がいたが、その表情には仮面を被ったような不自然な硬さがあった。
夜更けに夫婦に導かれ外に出ると、フードを纏った人々の行列が待っていた。
その列に加わり教会へ向かうと、地下深くで病的な緑色の炎に照らされた奇怪な儀式が始まる。この町の住人たちの正体とは。
彼らが守り続けてきた秘密の儀式の目的とは。表面上の穏やかさの下に潜む異形の世界が明かされる。
- クリスマスの季節、語り手は古き町キングスポートを訪れ、雪に覆われた墓地を抜けて年代物の家に向かう。そこには変わらない祖父母がいたが、その表情には仮面を被ったような不自然な硬さがあった。
- 「ピックマンのモデル」
- ボストンの画壇から突如姿を消した画家リチャード・アプトン・ピックマン。その失踪の真相を知る唯一の人物サーバーが戦慄の事実を語り始める。
ピックマンの奇怪な絵画は多くの人を遠ざけたが、サーバーだけは交友を続けていた。
ある夜、ピックマンはサーバーをコップスヒル墓地近くの秘密のアトリエに誘う。そこには想像を絶する悪魔的な絵画の数々があった。
ピックマンは古の伝承「取りかえ仔」について語り、人間の子供と入れ替わる異形の存在を生々しく描写する。
サーバーが絶交した理由と失踪の真相とは。
- ボストンの画壇から突如姿を消した画家リチャード・アプトン・ピックマン。その失踪の真相を知る唯一の人物サーバーが戦慄の事実を語り始める。
- 「『ネクロノミコン』の歴史」
- 「往古の民」
- 「ダンウィッチの怪異」
- 薄暗い丘陵地帯ダンウィッチで、1913年に白化症の女性ラヴィニア・ウェイトリーが父親不明の子ウィルバーを産む。
老ウェイトリーは「ウィルバーはいずれ父の名を呼ぶ」と予言する。
常識を超えた速度で成長し人間離れした姿のウィルバーは、禁断の書「ネクロノミコン」の解読を目的としていた。
しかし図書館での入手を試みるが、番犬に襲われ死亡する。その死体は人間らしい特徴を失った恐ろしい姿だった。
ウィルバーの死後、ダンウィッチを目に見えない脅威が蝕んでいく。ウェイトリイ家の秘密とウィルバーが呼び覚まそうとした存在の正体とは。
- 薄暗い丘陵地帯ダンウィッチで、1913年に白化症の女性ラヴィニア・ウェイトリーが父親不明の子ウィルバーを産む。
- 「アロンゾ・ダイパーの日記」
文庫版仕様の詳細
出版社:星海社
発売日:2018/5/31
ページ数:320ページ
価格:紙版:1540円/電子版:1525円
購入ガイド
- Amazon:「https://amzn.to/4n0ZfVA」
読者レビューまとめ
良い点
- ネクロノミコンの創生過程を作品の内外から余すところなく追える構成が秀逸
- 訳注が非常に充実しており、半ば訳注目当てで読むほどの価値がある
- 原文から改行箇所を増やし平易な言葉を選んで高いリーダビリティを維持
- 充実した資料や注釈、地図が付属し、ラヴクラフトという授業科目の教科書のような完成度
- ウィリアム・ラムレイのオリジナル版「アロンゾ・タイパーの日記」とラヴクラフトの改作版を読み比べできる貴重な機会
- 「ピックマンのモデル」「ダンウィッチの怪異」など有名作品を収録しておりコストパフォーマンスが高い
- HPLによる改作版では今日のアクションものやRPGゲームを彷彿とさせる展開・ギミックが興味深い
気になった点
- ラヴクラフトと同時代でないと馴染みが薄い描写や、日本人には分かりづらい単語が含まれている
- 前作より薄い構成になっている
- ラヴクラフトによる添削・改作の比較例がまだ少ない
こんな人におすすめ!
- ネクロノミコンの成立過程に興味がある人
- ラヴクラフト作品を学術的に深く理解したい人
- 作家による添削・改作の過程を知りたい人
- 「ピックマンのモデル」「ダンウィッチの怪異」などの有名作品を新訳で読みたい人
- クトゥルー神話の最も普及した創作物について学びたい人
- Fate/Grand Orderなどで関連キャラクターを知った人
まとめ
本書は、クトゥルー神話において最も普及したとされる、「ネクロノミコン」という架空の魔道書の創生過程を、作品内外の両面から体系的に追った貴重な短編集となっている。
ラヴクラフトによる執筆順と作中設定の成立順を意識した編集により、この重要な設定がいかに発展していったかを段階的に理解できる。
充実した訳注と資料により、文学的な深読みも可能な学術的価値の高い構成となっている。また、作家による添削・改作の比較という珍しい試みにより、創作過程の理解も深まる、クトゥルー神話研究において重要な位置を占める一冊といえる。