【読了ガイド】『呪われし地』│収録作品・購入方法まで紹介
はじめに
本書は、クラーク・アシュトン・スミスによる短編集で、1986年に国書アーカムハウス叢書の一冊として刊行された。
1960年版を底本とした完訳で、15編を収録している。
原題の”genius loci”は土地の守護精霊を意味するが、邦題は「呪われし地」として精霊と土地柄の両方の意味を含ませたダブルミーニングとなっている。後にクトゥルフ神話になるヴルトゥームが読める唯一の書籍である。
収録作品リスト
- 「地霊」
- 「柳のある風景」
- 「九つ目の骸骨」
- 「火事の幻影」
- 「永遠の世界」
- 「ヴルトゥーム」
- 太陽系の果てから飛来したヴルトゥームは、火星に不時着した。
高度な知識で先住民を魅了して一大勢力を築くが、既存権力者との戦いに敗れ、地下に潜伏することとなった。
千年単位の眠りと覚醒を繰り返すうち、老いゆく火星に飽きた彼は、若く活力に満ちた地球への移住を野望に抱く。
地球人類の宇宙進出が始まる中、二人の地球人ヘインズとチャンラーは謎の使者に導かれ伝説の地下世界「ラヴォルモス」にたどり着く。
そこで石造りの花の姿をしたヴルトゥームが太陽系外生命体であることを明かし、地球移住計画への協力を、長寿の霊薬や財宝と引き換えに持ちかける。
- 太陽系の果てから飛来したヴルトゥームは、火星に不時着した。
- 「異次元の惑星」
- 「大昔の町」
- 「ヴィーナスの解放」
- 「イルールニュの巨像」
- 「森の神サテュロス」
- 「アドンパの庭園」
- 「食屍鬼の神」
- ズル=バ=サイルの街では死者を神への贄とする奇妙な習慣が根付いていた。
身体が麻痺する持病を抱えたエライスと夫ファリオムは、新たな人生を求めて旅立つが不吉な街へ迷い込んでしまう。
宿で発作を起こしたエライスは死亡と誤診され、神モルディギアンへの贄として神殿に運び込まれてしまう。
一方、妖術師アブノン=サは自らの欲望のために神殿から死体を奪い取ろうと企てる。
絶望的な状況でファリオムは神殿への潜入を決意し、無数の死体が横たわる祭壇で愛する妻を見つける。
ここから夫婦の命がけの脱出劇が始まる。
- ズル=バ=サイルの街では死者を神への贄とする奇妙な習慣が根付いていた。
- 「プトゥームの黒い僧院長」
- 「地下埋葬室に巣を張るもの」
文庫版仕様の詳細
出版社:国書刊行会
発売日:1986/1/1
ページ数:330ページ
価格:紙版:3400円
購入ガイド
読者レビューまとめ
良い点
- バラエティに富んでおり、スミスの多面的な才能を知るのに良い一冊
- 粘土細工のような濃厚なイマジネーションを心して味わえる
- 後半の収録作ほど読みごたえがあるという構成で、代表作「イルールニュの巨像」は出色
- クトゥルフ的にはヴルトゥーム、アイハイ族、モルディギアン、食屍鬼などが登場し注目に値する
- 現代・SF・中世風・ファンタジーと、スミスの書いたあらゆる舞台をまんべんなく拾った作品
- スミス作品の邦訳をまとめて読める貴重な機会
気になった点
- やや小粒な印象の作品が多い
- 結末はいずれも悲惨な作品が多い傾向にある
- 雑誌単発ならSFとして通用する作品が数点混在している
こんな人におすすめ!
- クラーク・アシュトン・スミスの多面的な才能を知りたい人
- ヴルトゥームやクトゥルフ神話関連要素に興味がある人
- 様々な舞台設定(古代・中世・SF・ファンタジー)を楽しめる人
- 濃厚なイマジネーションと独特の文体を味わいたい人
- 日本の夏の怪談として洋物を楽しみたい人
まとめ
本書は、スミスの多彩な創作活動を俯瞰できる貴重な短編集である。
散漫さという弱点はあるものの、彼の濃厚なイマジネーションと独特の世界観を様々な舞台設定で楽しめる、スミス作品の入門書として価値の高い一冊となっている。




