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【読了ガイド】『ラヴクラフト全集5』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『ラヴクラフト全集5』│収録作品・購入方法まで紹介

全集5

本書は、H.P.ラヴクラフト作品のみを収録した全集の第5巻である。

収録作品は「神殿」、「ナイアルラトホテップ」、「魔犬」、「魔宴」、「死者蘇生者ハーバート・ウェスト」、「レッドフックの恐怖」、「魔女の家の夢」、「ダニッチの怪」、「資料『ネクロノミコン』の歴史」の9編となっている。

後にダーレスがクトゥルー神話を作る際に大いに参考にしたと思われる作品を集めたもので、クトゥルー神話の「体系」が形成される以前の萌芽のような作品が収められている。

「ダンウィッチの怪」はクトゥルフ神話を知る上で読むことを推奨し、「ハーバート・ウェスト」は映画化もされているほど評価されている。

  • 神殿
    • 第一次大戦中、ドイツ海軍の潜水艦を指揮するプロイセン貴族カール・ハインリッヒは、英国貨物船を撃沈する。
      しかし潜水艦の手すりに敵船乗組員の死体が絡みつき、その遺品から「月桂冠をいただく若者の頭部」の象牙細工が発見される。
      この奇怪な品を境に艦内は狂気に蝕まれ始める。
      悪夢に苛まれる水兵たち、舷窓越しに見える幽霊のような死体、呪いを恐れ正気を失う者たち。機関室での爆発や艦内暴動が次々と起こり、伯爵の鉄の規律も効力を失う。
      海底に沈みゆく潜水艦が辿り着く驚愕の真実とは。
  • ナイアルラトホテップ
    • 世界が激動の時代に突入し、人々の心に不安が渦巻く中、エジプトから謎めいた人物ナイアルラトホテップが現れる。
      彼が携えた装置はガラスと金属が織りなす幾何学的形状で、見たことのない電気応用技術を駆使していた。
      好奇心に駆られた語り手たちは彼の公演に足を運ぶ。そこで目にするのは現実と幻想の境界を超越する狂気の講演だった。
      視覚と聴覚を混乱させる幻惑的な光と音、そしてナイアルラトホテップが語る人知を超えた真実の数々。
      それは人類の歴史や宇宙の秘密なのか、それとも全くの狂言なのか。
  • 魔犬
    • 倦怠に満ちた日々を送る語り手と友人セント・ジョンは、墓荒らしという禁忌の行為に刺激を見出していた。
      道徳の境界を超え、死者の眠りを妨げることに快感を覚える二人。しかし500年の時を経た古墓から持ち帰った翼の生えた犬の魔除けが、彼らの運命を狂わせる。
      家に響く羽ばたき音、夜の闇に轟く巨大な猟犬の遠吠え。
      やがてセント・ジョンが何者かに襲われ命を落とし、最期に魔除けについて語る。親友を失った語り手を待ち受ける運命とは。
      500年の時を超えて追いかける”何か”の正体とは。
  • 魔宴
    • クリスマスの季節、語り手は古き町キングスポートを訪れ、雪に覆われた墓地を抜けて年代物の家に向かう。そこには変わらない祖父母がいたが、その表情には仮面を被ったような不自然な硬さがあった。
      夜更けに夫婦に導かれ外に出ると、フードを纏った人々の行列が待っていた。
      その列に加わり教会へ向かうと、地下深くで病的な緑色の炎に照らされた奇怪な儀式が始まる。この町の住人たちの正体とは。
      彼らが守り続けてきた秘密の儀式の目的とは。表面上の穏やかさの下に潜む異形の世界が明かされる。
  • 死者蘇生者ハーバート・ウェスト
    • 天才医師ハーバート・ウェストは死者蘇生という禁断の実験に挑む。
      ミスカトニック大学医学部で生命を機械的なものと捉え、化学処理で死者を蘇らせる理論を追求する彼の姿は、狂気と天才の境界線上にあった。
      全6章にわたる実験は倫理の限界を超えていく。
      無縁墓地での密かな実験、学部長の蘇生実験、人種の壁を越えた実験、戦場での挑戦。
      しかし死者蘇生の危険性と倫理的問題が二人を追い詰める。
      第一次世界大戦後、ボストンに身を置く二人の医師を待つ、ウェストの偏執的探求が招く想像を絶する結末とは。
  • レッドフックの恐怖
    • ブルックリンのスラム街レッド・フック近くの警察署に勤務する刑事トーマス・マローン。
      彼が注目するのは、古い名家の裕福な男性ロバート・サイダムだった。サイダムは区役所付近で不審な外国人と接触を繰り返していた。
      親族の圧力をかわすため、サイダムは高貴な女性コーニリア・ゲリトセンと結婚する。
      しかし、蒸気船で行われた結婚式は悲劇に変貌し、新郎新婦の無残な遺体が発見される。
      体内から一滴の血も見つからず、サイダムの遺体は得体の知れないアラブ人に引き渡された。
      レッド・フックに潜む恐るべき真実とは。
  • 魔女の家の夢
    • ミスカトニック大学の学生ウォルター・ギルマンは、魔女の伝説が残る奇妙な角部屋に引っ越す。
      新居での生活が始まると、夢の中で手の生えた巨大な鼠「ブラウン・ジェンキン」に追われるようになる。
      現実と夢の境界が曖昧になり、夢遊病の兆候も現れ始める。
      ある日、人知を超えた不思議な空間で「古のもの」の像を手に取る夢を見たギルマン。目覚めると、夢の中で拾ったはずのその像が現実の部屋に転がっていた。
      この衝撃的な発見は彼の「夢」の本質に疑問を投げかける。
      魔女の伝説と異次元空間、古の存在が絡み合う中での結末とは。
  • ダニッチの怪
    • 薄暗い丘陵地帯ダンウィッチで、1913年に白化症の女性ラヴィニア・ウェイトリーが父親不明の子ウィルバーを産む。
      老ウェイトリーは「ウィルバーはいずれ父の名を呼ぶ」と予言する。
      常識を超えた速度で成長し人間離れした姿のウィルバーは、禁断の書「ネクロノミコン」の解読を目的としていた。
      しかし図書館での入手を試みるが、番犬に襲われ死亡する。その死体は人間らしい特徴を失った恐ろしい姿だった。
      ウィルバーの死後、ダンウィッチを目に見えない脅威が蝕んでいく。ウェイトリイ家の秘密とウィルバーが呼び覚まそうとした存在の正体とは。
  • 「資料『ネクロノミコン』の歴史」

出版社:東京創元社

発売日:1987/7/10

ページ数:349ページ

価格:紙版:704円/電子版:541円

良い点

  • 後のクトゥルー神話形成の基盤となる重要な作品群が収録されている
  • 「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」はホラー小説として優れたストーリー
  • 「ダンウィッチの怪」は印象の濃い優れたホラーで、例外的にバッドエンドではない作品
  • ラヴクラフトの素晴らしい筆致で、仄めかしながら読者心理を盛り上げる演出が秀逸
  • 大瀧氏の翻訳は、おどろおどろしい文章だからこそ醸し出せる恐ろしさがある
  • 執拗でねちっこい描写により、ちょっと頭のおかしい人が書いたような混乱した文章の異常さが表現されている
  • 強迫的に反復されるイメージへの固執が循環し続ける心的システムに惹きつけられる魅力がある
  • ネクロノミコンなど複数作品を渡り歩く要素が執着的なライトモティーフとして機能している

気になった点

  • 大瀧氏の翻訳は句読点の位置や文章の区切り方が悪く、長々しくて読みにくい
  • 文章の意味が分かりにくくなる場合があり、より簡潔な翻訳が望まれる
  • 「ウィップアーウィル」など一般人にはイメージが湧かない用語選択がある
  • 他の巻からもれた話をまとめたような印象が強い構成
  • 相変わらず会話文がほとんどなく地の文も読みづらい

こんな人におすすめ

  • クトゥルー神話の成り立ちや体系形成の過程に興味がある人
  • ラヴクラフト作品とクトゥルー神話との相違点を理解したい人
  • 映画「リアニメーター」などの原作に興味がある人
  • 強迫的で執着的なイメージの反復に惹かれる人
  • おどろおどろしい文体による恐怖表現を楽しめる人

本書は、後のクトゥルー神話体系の萌芽となる重要な作品群を収録した記念すべき巻である。

ラヴクラフト独特の執着的なイメージの反復と、体系化される以前の恐怖描写により、20世紀怪奇小説の貴重な価値を持つ一冊となっている。

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