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【読了ガイド】『ラヴクラフト全集4』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『ラヴクラフト全集4』│収録作品・購入方法まで紹介

全集4

本書は、H.P.ラヴクラフト作品のみを収録した全集の第4巻である。

収録作品は「宇宙からの色」、「眠りの壁の彼方」、「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」、「冷気」、「彼方より」、「ピックマンのモデル」、「狂気の山脈にて」、「資料:怪奇小説の執筆について」の8編となっている。

「宇宙からの色」は映画化されるほど人気が高く、「狂気の山脈にて」はクトゥルフ神話TRPGの代表作と言っても過言ではない重要な作品である。科学に比重の置かれた作品を中心に構成されている。

  • 宇宙からの色
    • アーカムの貯水池建設に派遣された測量技師は、「焼け野」と呼ばれる荒涼とした土地を調査する。
      近隣住民アミ・ピアースは1882年の出来事を語り始める。
      ネイハム・ガードナー家に落下した隕石は異常な性質を持ち、「描写不可能な色」の球体が内部に存在していたが、球体が破裂し消滅する。
      その後、巨大化するが食用に適さない野菜や、奇怪に変異する動植物が現れる。
      状況に耐えられなくなったネイハムの妻ナビーが発狂し、続いてガードナー家の人々が次々と狂気に冒されていく。
      測量技師は宇宙からもたらされた未知の恐怖の正体に迫る。
  • 眠りの壁の彼方
    • 1900年、キャッツキル山脈の精神病院に殺人の罪で収容されたジョー・スレイター。
      一見単なる狂人だが、彼の脳裏には奇妙な宇宙的幻視が浮かび上がる。退化した方言では壮大なヴィジョンを表現できず、まるで意識が別次元と繋がっているようだった。
      実習生の語り手は、スレイターの妄想に人知を超えた何かを感じ取る。
      彼の意識と交信するため「宇宙的ラジオ」という装置を開発し、ついに成功する。
      その瞬間、語り手の意識は未知の領域へ引き込まれ、妖しい音楽と鮮烈な幻視が現れる。
      狂気の向こう側に潜む真実とは。
  • 故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
    • 18世紀のコンゴ探検者ウェイド・ジャーミン卿は「先史時代のコンゴの白人」という奇説を唱え精神病院に収容される。
      謎に包まれたコンゴ出身の妻を連れ帰った彼の末裔たちは、外見も精神も異常を示すようになった。
      19世紀半ば、ロバート・ジャーミン卿は家族を殺人未遂し、探検家の友人を殺害する。
      汚名返上を志したアーサー・ジャーミンは祖先の研究を引き継ぎ、学説の正当性を証明しようとする。
      しかし真実に近づくほど、自身のルーツに潜む想像を絶する恐怖を垣間見ることになる。
      知ってはならない真実を知った彼の運命とは。
  • 冷気
    • 1923年春、平凡な下宿屋に住む無名の作家の日常が想像を絶する恐怖へと変わる。下宿人の中で異彩を放つのは引退した医師ムニョス博士だった。
      博士の部屋には常に奇妙な寒気が漂い、アンモニア吸収式冷房装置で室温を極端に低く保っている。これは18年前の病気の後遺症によるものと噂されていた。
      ある灼熱の夏の日、博士の冷房装置が故障する。語り手が修理を手伝おうとすると、博士が極度の低温を求める理由と、冷房装置の向こう側に潜む想像を絶する真実に直面することになる。
  • 彼方より
    • 天才科学者クロフォード・ティリンギャーストは、人類の知覚の限界を打ち破る装置を開発した。
      親友である語り手を実験室に招いた彼は、人間の目では捉えられない紫外線の世界を見せる。
      実験が進むにつれ、これまで空虚だと思われていた空間に、水母のような不定形の物体が漂い始める。それらは幽霊のように語り手の体をすり抜けていく。
      現実と非現実の境界が溶け始める中、ティリンギャーストの実験はさらに奇怪な展開を見せ、未知の領域で人知を超えた存在との遭遇が待ち受けている。
  • ピックマンのモデル
    • ボストンの画壇から突如姿を消した画家リチャード・アプトン・ピックマン。その失踪の真相を知る唯一の人物サーバーが戦慄の事実を語り始める。
      ピックマンの奇怪な絵画は多くの人を遠ざけたが、サーバーだけは交友を続けていた。
      ある夜、ピックマンはサーバーをコップスヒル墓地近くの秘密のアトリエに誘う。そこには想像を絶する悪魔的な絵画の数々があった。
      ピックマンは古の伝承「取りかえ仔」について語り、人間の子供と入れ替わる異形の存在を生々しく描写する。
      サーバーが絶交した理由と失踪の真相とは。
  • 狂気の山脈にて
    • 1930年から1931年、ミスカトニック大学の南極探検隊が新型ボーリング機で調査を進める中、「オールド・ワン」と呼ばれる化石を発見する。生物学者レイクは詳しい調査のためメイン隊から分かれて行動するが、数日後に連絡が途絶える。
      救出に向かったダイアーたちが見たのは、無残な姿で発見された隊員たちの遺体と、埋められていた未知の生命体だった。
      南極の氷の下に眠る人知を超えた存在の真相に迫るにつれ、探検隊は徐々に狂気に飲み込まれていく。
      この未知の生命体の正体と南極に潜む恐るべき秘密とは。
  • 「資料:怪奇小説の執筆について」

出版社:東京創元社

発売日:1985/11/29

ページ数:345ページ

価格:紙版:704円/電子版:537円

良い点

  • ラヴクラフト全集の中でも一番おすすめできる巻で、初期・中期の傑作が収録されている
  • 狂気の山脈にて」という彼の最大の長編にして怪奇科学ロマンの到達点が収められている
  • 「怪奇小説の執筆について」というエッセイも付いており、短編集として満足のいく内容
  • 「宇宙からの色」のクライマックスは良質のスリラー映画を見ているときの快感に似た盛り上がり
  • オーソドックスな作劇法ながら読者の心を捉えて離さない話芸が素晴らしい
  • 「冷気」や「ピックマンのモデル」はじわじわと恐怖を盛り上げて驚愕の結末へ持っていく構成が一貫している
  • 硬い文章ながら読書慣れしていない人でもゆっくり読めば映画のように脳内で映像化される
  • ホラーというよりSFとして読んでも面白い
  • クトゥルフ入門者必読の作品が多く、「狂気の山脈にて」は旧支配者、ショゴスなどの基本設定が示されている
  • 「宇宙からの色」は臨場感のある語り口で最も恐怖を覚える作品

気になった点

  • 翻訳に難があり、文章があまり日本語として出来が良くないと感じる場合がある
  • 荒俣宏氏の旧訳業に比べて現在の翻訳は恵まれていない状況
  • 相変わらず重厚な翻訳で、軽く読みたい読者には大きな壁となる
  • 書き出しは訳がわからないことが多く、最初の3〜4ページは2回読む必要がある
  • 恐怖の実体がなかなか姿を現さず、最後まで何だったのかわからないことも多い
  • 十分な言語能力と理性的な想像力が不可欠で、理解にはハードルが高い

こんな人におすすめ

  • ラヴクラフト全集を読み始める人で、どの巻から手をつけるか迷っている人
  • 科学的アプローチから描かれたSFっぽい怪奇小説を読みたい人
  • クトゥルフ神話TRPGをプレイしていて原作を知りたい人
  • 映画「カラー・アウト・オブ・スペース」の原作に興味がある人
  • じわじわと恐怖を盛り上げる古典的な怪奇小説を楽しめる人
  • 20世紀怪奇小説の古典として評価される作品を読みたい人
  • 時間的・空間的に壮大なスケールの物語を求める人

本書は、ラヴクラフト全集中でも特に重要な位置を占める傑作選である。

現代のSFやホラー作品にも通用する魅力を持つ作品群により、20世紀怪奇小説の古典としての価値を確固たるものにした一冊となっている。