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【読了ガイド】『グラーキの黙示Ⅱ』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『グラーキの黙示Ⅱ』│収録作品・購入方法まで紹介

グラ2

本作は、ラムジー・キャンベルによる初期クトゥルフ神話作品集『Cold Print』の完全邦訳版となる短編集。

本書には全21篇の内10篇が収録されており、1960年代から1980年代に執筆された作品が中心となっている。

人気の邪神イゴーロナクの代表作「コールド・プリント」をはじめ、キャンベルが創造した邪神の代表作も多数含まれている。上巻よりも後の時期に書かれた作品が中心で、より成熟した作風を示している。

  • 「島にある石」
  • 嵐の前に
    • 灼熱の太陽から逃れるように、正気を失った名もなき男が税務署に駆け込んできた。
      職員たちが困惑する中、物語は過去へ遡る。
      この男はかつて「ソサエティ」と呼ばれる集団に関わり、神秘主義の世界へ足を踏み入れた。
      「アイホート」として知られる旧き神との契約により、意識を他の肉体に移し替えて宇宙を旅する能力を得たが、その代償として精神が徐々に崩壊していく。
      宇宙の果てを巡り、数え切れない肉体を乗り換えた男は、人知を超えた体験により理性では理解し得ない真実に触れてついに正気を失った。
      現在、狂気に冒された男は体験を伝えようともがくが、もはや言葉すら発することができない。
  • コールド・プリント
    • 激しい雪に包まれたブリチェスターの街を彷徨うストラットは、浮浪者の案内で迷宮のような路地を抜け、時の流れから取り残されたような古書店に辿り着く。
      埃と古書の匂いに包まれた店内で、ストラットの手に運命の一冊が落ちた瞬間、彼の人生は大きく歪み始める。
      翌日再び訪れた古書店で、店主から『グラーキの黙示録』という禁断の書物を勧められる。
      11巻しか存在しないはずの本書だが、隠された12巻には人知を超えた謎と恐怖が満ちているという。
      しかし店主の様子には異様なものがあり、言葉の端々に狂気の影が漂っていた。
      知ってはならない真実の入り口に立つ。
  • 「フランクリンの章句」
  • 「窖よりの狂気」
  • 「絵の中に描かれていたもの」
  • 誘引
    • ブリチェスター・ヘラルドのジャーナリスト、インゲルスは奇妙な悪夢に悩まされ続けていた。
      夢の中で海底から浮上する不気味な都市を目にし、その扉から青白い得体の知れない生物が覗いている光景を見る。
      知らない部屋で望遠鏡を覗き何かを待つ夢を、父も同じように見ていた。
      夢の中の部屋の正体はバラエティ座の二階にある天体愛好家が使用していた部屋で、そこにはインゲルスの知られざる過去が隠されていた。彼の祖父とその仲間がかつてこの建物で窃盗を働いていたのだ。
      真相を突き止めようと部屋に足を踏み入れたインゲルスが夢で見た望遠鏡の前で目にする真実とは。
  • パイン・デューンズの顔
    • 色々な街に移住を続ける家族。
      ある日、両親の怒号から逃れて外に出たマイケルは、見知らぬ森で灌木のトンネルを見つけるが、進むほどに闇が重くなり不気味な感覚に襲われ慌てて引き返した。
      家に戻ると両親は外出していた。
      再び家を出て、衝動的にバスに乗り見知らぬ村のクラブに行き、ジューンという女性と親しくなる。
      彼女が勧めた古い本で「セヴァンフォード」という地名を発見し、索引で調べると家族がこれまで移動してきた土地の名前が次々と現れた。
      両親の永遠の議論と不自然な移動パターンが偶然ではなく、何かのパターンに従っていたのだ。
  • 「暗転」
  • 「砂浜の声」

出版社:サウザンブックス社

発売日:2022/2/17

ページ数:3ページ

価格:紙版:2420円/電子版:1760円

良い点

  • 人気の邪神イゴーロナクの代表作「コールド・プリント」が収録されている
  • 「パイン・デューンズの顔」は怪しい両親と20歳の息子という新鮮な関係性が印象的で白眉の作品
  • 上巻収録作に比べて作風が広がり、ナボコフやW.S.バロウズからの影響が感じられる
  • 「誘引」は最後のとんでもない大風呂敷をそれと感じさせない流れが秀逸
  • 「砂浜の声」の頭痛の描写に嫌なリアリティがあって印象的
  • 日常生活が舞台の作品が多く、日常の崩壊や超常的な部分との混在が面白い
  • 1巻目より後の時期の作品で完成度が高い作品が多い
  • 初めて翻訳された作品も含まれており、解題も充実している
  • 用語解説、年表、索引、解題と資料が盛沢山

気になった点

  • 校正漏れの多さが残念な点として指摘されている
  • 一部作品では読者にとってもブラックアウト的な難解さがある
  • じわじわと取り込まれていく諦観的な展開が重い場合がある

こんな人におすすめ

  • イゴーロナクなどキャンベル創造の邪神に興味がある人
  • ラヴクラフト以外の影響も受けた多様な作風を楽しみたい人
  • 日常に潜む恐怖や超常現象を描いた作品を求める人
  • 家族関係を軸とした新鮮な神話作品を読みたい人

本巻は、キャンベルの作家としての成長と作風の広がりを示す重要な作品集となっている。

イゴーロナクの代表作「コールド・プリント」をはじめ、キャンベルが創造した邪神たちの魅力を堪能できる。

ラヴクラフトの影響から出発しながらも、ナボコフやバロウズなど多様な文学的影響を吸収し、独自の恐怖表現を確立していく過程が見て取れる。

日常に潜む恐怖という現代ホラーの要素も取り入れながら、クトゥルー神話の新たな可能性を示した貴重な作品群として評価される一冊といえる。