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【読了ガイド】『クトゥルー3』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『クトゥルー3』│収録作品・購入方法まで紹介

クト3

本作は、クトゥルフ神話を彩る作家陣の代表作を一冊に集めた短編集。ラヴクラフト、ビアース、チェンバース、スミス、ダーレス、ブロックといった神話文学の巨匠たちが、それぞれ異なる恐怖の世界を描き出している。

  • カルコサの住民」 アンブローズ・ビアース
    • 陰鬱とした風景の中、主人公はカルコサを目指して傾いた墓石ばかりが見える、死者の世界のような不気味な旅路を歩んでいた。
      道中で野獣に襲われそうになるが、死を覚悟して逆に攻撃に転じると獣は驚いたように逃げ出した。
      恐怖すら抱かない主人公の姿には、何かしらの違和感が漂う。
      獣の逃げた先にいた男にカルコサへの道を尋ねるが、奇妙な言語で歌を口ずさみながら答えることなく立ち去ってしまう。
      疲れ果てた主人公が古びた木の下で休息を取ると、近くにある平たい石が碑銘の刻まれた墓石だと気づく。
      そこに記されていたのは主人公自身の名前と、生年月日だけでなく死亡した日付まで明確に刻まれていた。
  • 黄の印」 ロバート・W・チェンバース
    • 春の穏やかな日、画家スコットはモデルのテシーと制作に励んでいたが、教会へ入る奇妙な夜警の姿を目撃する。
      後に窓から再び夜警を見たスコットは、ぶよぶよと歪んだ蛆虫を思わせる表情に強烈な違和感を覚える。
      同じ頃、テシーの肖像画も突如として描けなくなり、何度修正しても肌の色彩が悪化し続けた。テシーは悪夢を告白する。
      夜警が運転する霊柩車に横たわるスコットを窓から見るという恐ろしい光景だった。
      ある夜、夜警の唇から「黄の印はみつかったか」という言葉が漏れる。
      翌朝、テシーから縞瑪瑙のメダルを受け取るが、そこには奇妙な刻印があった。
  • 彼方からのもの」 C・A・スミス
    • 親戚の彫刻家キュプリアン・シンカウルに会うためサンフランシスコを訪れたフィリップ・ハスティン。彼はトルマン書店でゴヤの画集に描かれた怪物の絵に強烈な衝撃を受ける。
      再会したキュプリアンは別人のように変貌していたが、その作品は驚くべき進化を遂げていた。
      グールや邪神を描いた彫像は不気味なリアリズムで迫ってくる。
      アトリエの「彼方からのもの」と名付けられた彫像はゴヤの怪物と酷似していた。
      モデルの少女マータは「キュプリアンは変わってしまった。あの彫像を完成させてはいけない」と警告する。
      その夜、マータ失踪の知らせが届く。
  • 邪神の足音」 ダーレス&スコラー
    • 不動産業者コリンズから、過去に入居者が亡くなり奇妙な苦情が相次ぐ物件を紹介されたウィリアム・ラーキンズ。
      コリンズは開かずの間の存在や不可解な足音について警告するが、ラーキンズは引っ越しを決める。
      かつてこの家で狂死した科学者ジョン・ブレントは、エーテルから霊を引き出す研究をしていた。
      引っ越し後6日目、二階から狭い空間を歩く足音と壁を叩く反響音が聞こえる。
      ブレントの協力者への手紙で、浮遊するエーテルを肉体に宿す実験の詳細を知る。
      庭で発見した「草の生えない場所」は、膝を抱え込んだ人間がぴったりと収まる形をしていた。
  • 暗黒のファラオの神殿」 ロバート・ブロック
    • 砂漠の風が吹きすさぶカイロの夜、老齢のカータレット大尉は、アラブ人に街の地下深くの秘められた納骨堂へ案内されようとしていた。
      アラブ人は秘密を語ることを禁じられているため、大尉に公表してもらおうとしている。
      アラブ人が取り出したのはネフレン=カの印で、彼は「アルハザードの知人です」と名乗った。
      カータレットはエジプト駐屯時代に芽生えた考古学への情熱から、暗黒の知識への渇望を深めていた。
      伝説によればネフレン=カは玉座を奪った神官で、ニャルラトホテプの熱狂的信奉者だった。しかし、反乱により追放され、カイロ近郊の秘密納骨堂で最期を迎えたという。
      アラブ人は「ネフレン=カの神官たちは死にましたが、教団は途絶えていません。私もその神官の一人です」と告げた。
  • サンドウィン館の怪」 オーガスト・ダーレス
    • インスマス道沿いに佇むサンドウィン館で、従兄弟エルドンから「梟が鳴いている」という暗号めいた緊急連絡を受けたデイヴィット。
      急いで館に向かうと、エルドンの父親が十年前と同様に謎の「旅」から帰還し、不可解に財産を増やしていた。
      館内には正体不明の足音と奇妙な音楽が響き、父親の外見は日に日に変貌していく。
      皮膚は異常に湿り気を帯び、瞳は飛び出し、カエルのような様相を呈していた。
      その夜、デイヴィットとエルドンは同じ夢を見て、父親が見えない相手に「クトゥルフがわしを連れて行くことはできない」と語る声を聞く。
      サンドウィン館に棲みついたのは―。
  • 妖術師の帰還」 C・A・スミス
    • オークランド郊外でアラビア語を学んでいたオグデンは、偶然ジョン・カーンビイの求人広告を見つける。
      霧に覆われた屋敷で出会ったカーンビイは不健康な男性で、オグデンを助手として採用し一緒に住むことを提案する。
      仕事部屋には骸骨や剥製が並び、カーンビイは禁断の書物「ネクロノミコン」のアラビア語版の翻訳を依頼する。
      死者に命を吹き込む呪文を翻訳するオグデンの耳に、廊下から這うような不吉な音が聞こえ始める。
      ある夜、部屋のドアが開いた瞬間、オグデンが目にしたのは切断された手が転がる恐怖の光景だった。
  • 丘の夜鷹」 オーガスト・ダーレス
    • 従兄弟エイバルの奇妙な失踪を調査するため、ダン・ハロップは彼の丘の上の家に移り住んだ。
      エイバルは変わり者として家族から避けられており、4月7日に煙突から煙が上がらないことを不審に思った隣人が訪れた時には既に姿を消していた。
      到着後すぐに隣人の電話で「エイバルは悪魔の本を読んで連れていかれた」と聞き、初日の夜から夜鷹が一晩中鳴き続けた。
      エイバルの書棚には魔導書が並び、手書きのノートにはヨグ=ソトースの名前とルルイエ異本からの太鼓の音で何かを呼び寄せる呪文が記されていた。
      夜鷹たちがダンを取り囲む中、この丘の秘密とエイバルの行方は。
  • 銀の鍵の門を超えて」 H・P・ラヴクラフト
    • ニューオリンズでランドルフ・カーターの遺産処分を巡り、エティエンヌ=ローラン・ド・マリニー、弁護士アスピンウォール、謎のチャンドラプトゥラ師が集会を開く。
      チャンドラプトゥラ師は「カーターは死んでいない」と主張する。
      少年時代に戻ったカーターは「導くもの」ウムル・アト=タウィルに導かれ、時空を超越した世界へ足を踏み入れる。
      「古のものども」の玉座で明かされる衝撃の事実は、全ての存在には「原型」があり、個人はその一局面に過ぎないということだった。
      カーターは自身も「窮極の原型」の一部と悟り、意識は見知らぬ生命体へ転移する。
      存在の本質を探求する壮大な冒険。
  • 「クトゥルー神話ー逆転の発生学」 大瀧啓裕

出版社:青心社

発売日:1989/1/1

ページ数:331ページ

価格:紙版:814円/電子版:660円

良い点

  • ラヴクラフトの有名キャラクター「ランドルフ・カーター」と「銀の鍵」が登場する重要作品を収録
  • 邪神「ハスター」が登場する「黄の印」など著名作品が読める
  • ラヴクラフト以前のビアース「カルコサの住民」とチェンバーズ「黄の印」という貴重な源流作品を収録
  • 「銀の鍵の門を越えて」は別格の瞑想系幻想文学として圧巻
  • ダーレス「丘の夜鷹」は雰囲気が良く、設定で楽しませてくれる
  • ロバート・ブロック「暗黒のファラオの神殿」はトリックスター的要素で魅力的
  • 大瀧啓裕の解説が勉強になる
  • 複数作家によるアンソロジーとして多様性がある

気になった点

  • 訳者によって翻訳の巧拙に差がある
  • クトゥルーものの登場メンバー、真相、結末がパターン化している
  • 何編かで似たような思わせぶりな展開が続き、やや飽きがくる
  • 「丘の夜鷹」は「ダニッチの怪」を読んでいないと面白さが半減する
  • 展開に大きな差が見られず、マンネリ感がある

こんな人におすすめ

  • ランドルフ・カーターシリーズに興味がある人
  • ラヴクラフトの夢の世界を体験したい人
  • クトゥルー神話の源流作品を読みたい人
  • ナイアーラトテップやハスターなどの邪神に興味がある人
  • 瞑想系の幻想文学を楽しめる人
  • ホラー小説のアンソロジーとして楽しみたい人
  • クトゥルー神話の歴史的変遷を学びたい人

特に注目したいのは、ロバート・W・チェンバースの「黄の印」。人気の邪神ハスターが登場するこの作品は、黄衣の王の恐怖を存分に味わえる名編だアンブローズ・ビアースの「カルコサの住民」と合わせて読むことで、ハスター神話の奥深さがより一層理解できる。

H・P・ラヴクラフトの「銀の鍵の門を超えて」は、クトゥルフ神話を代表する作品の一つ。夢幻世界への扉を開く壮大な物語は、何度読み返しても新たな発見がある。ラヴクラフト文学の到達点を示す重要な作品。

大瀧啓裕氏による「逆転の発生学」は、この短編集のみに収録されている。