【読了ガイド】『クトゥルーの子供たち』│収録作品・購入方法まで紹介
はじめに
本書は、リン・カーターによるクトゥルフ神話作品集である。
収録作品は「赤の供物」、「墳墓に棲みつくもの」、「奈落の底のもの」、「時代より」、「陳列室の恐怖」、「ウィンフィールドの遺産」、「夢でたまたま」の7編(すべてリン・カーター作)と、ロバート・M・プライスによる「悪魔と結びし者の魂」1編の計8編となっている。
ゾス三神の作品が多く収録されており、カーターが体系化したゾス神話群に連なる物語をまとめた連作集である。約500ページのボリュームで、「クトゥルー神話の大統合者」「ふたつの神話の碩学」などの解説、年表、索引、関連世界地図なども収録されている。
収録作品リスト
- 「赤の供物」(リン・カーター)
- ムー大陸でガタノソア教団の台頭により、イソグサ教団が存亡の危機に瀕していた。
幼少期にイソグサから神秘的な夢を授かった信徒ザントゥーは、「赤の供物を捧げるべし」という謎めいた啓示を胸に秘めていた。
教団の衰退で大神官の座に就いたザントゥーは、古の召喚術師イラーンが所有していた魔術アイテム、「黒の印章」を手に入れれば地位が確立されると考える。
弟のクスと共に古都を訪れ、シュブ=ニグラスの神殿書庫でイゴス文書の写本を発見し、イラーンの最期と埋葬場所、黒の印章について記述を得る。
幾多の困難を乗り越え墓に辿り着いた兄弟を待つものとは。
- ムー大陸でガタノソア教団の台頭により、イソグサ教団が存亡の危機に瀕していた。
- 「墳墓に棲みつくもの」(リン・カーター)
- 1913年、考古学界の異端児コープランド教授は、「ポナペ経典」と「無名祭祀書」の暗号を解読した。
伝説の神官ザントゥーの墳墓の在処を突き止めたと確信して、中央アジアへの探検隊を組織する。
しかし未踏の地への旅路は苛酷を極め、疫病が隊員を蝕み、野獣の襲撃で水源を失い、現地ガイドの離反が相次ぐ中、禁忌とされるツァン高原の奥地へ足を踏み入れる。
40日目を過ぎた頃、古城が出現し、極寒と乾燥に肉体を蝕まれながらもコープランドの執念は衰えない。
ミ=ゴの襲来で最後のガイドを喪失し、孤独な探検家となった彼の前に無名の山脈が聳え立つ。
- 1913年、考古学界の異端児コープランド教授は、「ポナペ経典」と「無名祭祀書」の暗号を解読した。
- 「奈落の底のもの」(リン・カーター)
- 古代ムー大陸の神官ザントゥーの生涯を綴る「ザントゥー碑文」をコープランド教授が翻訳した物語。
ティオグの時代から約11,000年後、クナー王国では大神官ヤー・トボスの影響でガタノトア神の崇拝が唯一の公認宗教となり、異教は禁じられた。
隣国グトゥーの神官ザントゥーは、イェーの深淵のそばに建つ宮殿で「31の儀式」を研究し、封印された神イソグサを解放する呪文を発見する。
ウブとユッグと手を組み断崖で儀式を執り行うと、顔のない山のような巨体に一本の黒い角を持つ存在が深淵から現れる。
続いて第二、第三の「怪物」が現れた時、ザントゥーは真の姿を理解する。
- 古代ムー大陸の神官ザントゥーの生涯を綴る「ザントゥー碑文」をコープランド教授が翻訳した物語。
- 「時代より」(リン・カーター)
- 「陳列室の恐怖」(リン・カーター)
- 1920年代末、カリフォルニアの古代遺物研究所で職員ホジキンスが、休職中のブレイン博士に代わり、故コープランド教授の遺品整理を任される。
作業が進むにつれ悪夢に支配される夜が続き、特に「ポナペの小像」には言い知れぬ不吉な雰囲気が漂っていた。
研究所の理事会は小像の一般公開を決定するが、ホジキンスは危険性を訴える。
真相究明のためアーカムのミスカトニック大学で『ネクロノミコン』を調査し、「旧支配者」についての恐ろしい記述を目にする。
護符「旧き印」を託され研究所に戻ると、警備員の無残な遺体と小像を崇める得体の知れない人影が待ち受けていた。
- 1920年代末、カリフォルニアの古代遺物研究所で職員ホジキンスが、休職中のブレイン博士に代わり、故コープランド教授の遺品整理を任される。
- 「ウィンフィールドの遺産」(リン・カーター)
- 「夢でたまたま」(リン・カーター)
- 「悪魔と結びし者の魂」(ロバート・M・プライス)
- 「クトゥルー神話の大統合者」
- 「ふたつの神話の碩学」
- 年表
- 索引
- 『クトゥルーの子供たち』関連世界地図
文庫版仕様の詳細
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2014/8/30
ページ数:512ページ
価格:紙版:2200円
購入ガイド
読者レビューまとめ
良い点
- 新たな邦訳クトゥルー神話小説が読めるだけでなく、作中用語の詳しい解説や年表まで完備
- 訳注が非常に充実しており、クトゥルー神話固有の単語が出てきてもスムーズに読み進められる
- 「どうやって調べたんだ」と驚くほどの情報が多々あり、クトゥルー神話に対する訳者の熱意が伝わる
- 約500ページのボリュームで貴重な情報がたくさん詰まっており非常にお買い得
- TRPGシナリオや創作でイソグサ(「夢でたまたま」)やゾス=オムモグ(「時代より」)の外見描写の詳細を知りたい人には参考になる
- 今日のクトゥルー神話(小説及びTRPG)の基本となる作品集
- クトゥルー神話を体系化したカーターの功績が一目瞭然でわかる
気になった点
- 本書の内容を十分に楽しむには、ある程度本書に収録されていない神話作品を読む必要がある
- TRPGに多くの設定が導入されているが、必ずしも現在のTRPGの設定と一致しているとは限らない
- TRPGの参考にする場合は設定の相違について注意が必要
こんな人におすすめ!
- クトゥルー神話の体系化過程に興味がある人
- リン・カーターのゾス神話群について詳しく知りたい人
- TRPGシナリオやクトゥルフ神話作品の創作を行う人
- 詳細な訳注や解説を求める神話愛好家
- クトゥルー神話の歴史や成り立ちを学びたい人
まとめ
本書は、クトゥルー神話の体系化において重要な役割を果たしたリン・カーターの功績を示す貴重な作品集である。
ダーレスが「クトゥルー神話」と名付けて世に広めた作品群を、カーターが整理し体系化した過程を理解できる、神話研究においても創作においても価値の高い一冊となっている。




