ダゴン

ダゴン

Dagon

ハワード・フィリップ・ラヴクラフト 全集3 新訳1
概要
登場人物
あらすじ

本作は2,240語の短編小説で、1917年7月に執筆された。初出はVagrant誌1919年11月号で、その後Weird Tales誌1923年10月号および1936年1月号に再掲された。単行本初収録はThe Outsider and Othersで、校訂版がDagon and Other Macabre Tales、詳註版がThe Call of Cthulhuに収録されている。

『ダゴン』は、ラヴクラフトの夢体験から部分的に着想を得た作品である。主人公の行動描写について、ラヴクラフト自身が「夢で見た戦慄すべき匍匐前進の様子」を反映させたと述べている。この生々しい描写は、作者の夢の記憶に基づいているという点で興味深い。

また、本作品にはアーヴィン・S・コップの『魚顔』からの影響が指摘されている。ラヴクラフトは『魚顔』を高く評価しており、その要素が『ダゴン』に反映されている可能性がある。さらに、後の『クトゥルーの呼び声』や『インスマスを覆う影』は、『ダゴン』のテーマを発展させた作品と見なすことができる。

物語の結末については様々な解釈が存在するが、ラヴクラフト自身の意図としては、主人公の精神状態の悪化による幻覚や妄想として描かれていると考えられる。実際、ラヴクラフトは友人宛の手紙で、この作品を「奇妙な偏執狂の分析」と表現している。

この解釈は、恐怖小説としての「ダゴン」の特徴を浮き彫りにしている。すなわち、物理的な怪物の存在よりも、主人公の心理的崩壊とそれに伴う現実認識の歪みが、真の恐怖の源泉となっているのである。

  • 語り手
  • ダゴン

【舞台】

  • 第一次世界大戦中 サンフランシスコ

過去の記憶に苛まれ、モルヒネに依存していた無名の語り手。資金が底をつき、最後の選択として自害を決意する。そして、彼は過去の恐怖体験を綴り始める。

大戦中、船荷監督として航海中にドイツ軍に拿捕された彼は、奇跡的に脱出。しかし、その後の漂流は想像を絶する恐怖への序章に過ぎなかった。

ある夜、目覚めた語り手を待っていたのは、悪夢のような光景だった。船は「地獄めいた黒いぬるぬるした軟泥」に呑み込まれようとしていた。眠っている間に、海底から巨大な陸塊が隆起したのだ。

乾いた泥を歩き、丘の頂に辿り着いた語り手。そこから見下ろした光景は、人知を超えた恐怖だった。谷底には「巨大かつ異様なもの」—巨大な独立石が佇んでいた。人類の知らない古代文明の遺物。その表面には、おぞましい海棲生物の浅浮彫と不可解な碑文が刻まれていた。

人類の知らない古代文明の遺物。海底から突如として現れた未知の大陸。そして、それらを目撃してしまった一人の男。宇宙的恐怖の深淵を覗き込んでしまった語り手の、壮絶な体験を描き出す。

カテゴリー一覧