この作品は1,330語の短編小説で、おそらく1918年の晩春か夏に執筆された。アルフレッド・ギャルピンが編集するアマチュア刊行物Philosopher 1920年12月号に初掲載され、その後複数の雑誌に再録された。単行本初収録はO、校訂版がDに収録されている。
この作品は、ラヴクラフトとモーリス・W・モーの間で交わされた宗教論争の一環として生まれた。ラヴクラフトは1918年5月15日付のモー宛ての手紙で、この物語のインスピレーションとなった奇妙な夢について詳細に記している。
物語の作風はロード・ダンセイニの作品に似ているとされるが、ラヵクラフトがダンセイニの作品に触れたのは本作執筆の約1年後であることから、むしろエドガー・アラン・ポーの散文詩の影響を受けている可能性が高い。
この作品は、ラヴクラフトの初期の作品の中でも特に興味深い位置を占めており、彼の夢と現実の境界、時間と空間を超越した意識の探求というテーマの萌芽が見られる。また、後の作品に繋がる宇宙的な時間スケールや、古代文明への関心も垣間見える重要な作品である。
- 語り手
- アロス
- エスキモー…イヌート族
- ノフケー族
【舞台】
- 2万6千年前 ロマール オラトエ
ロマール、神話と現実が交錯する幻想の国。その首都オラトーエに、黄色の悪鬼イヌート族の影が忍び寄る。
語り手は、まず精神体としてこの世界を俯瞰する。やがて肉体を得て、ロマール人の一人となる。虚弱な体質ゆえ、前線での戦いは叶わぬが、彼の鋭い目は重要な任務を与えられる。
タプネンの物見の塔。そこで語り手は、敵の襲来を見張る役目を担う。しかし、運命は皮肉な展開を見せる。
北極星ポラリス、天頂から彼を見下ろす星。その瞬き一つが、不思議な呪文となって語り手を深い眠りへと誘う。
目覚めることのできない夢。それとも、現実よりも真実に近い世界か。
この物語は、夢と現実の境界線を曖昧にし、人間の意識の本質に迫る。語り手の目覚めが意味するものとは。そして、ロマールの運命は—。