木

The Tree

ハワード・フィリップ・ラヴクラフト 全集7
概要
登場人物
あらすじ

本作は1,640語の短編で、1920年前半に執筆された。初出はThe Tryout(1921年10月号)で、後にWT(1938年8月号)に再掲された。校訂版がD、詳註版がDWHに収録されている。

物語の中心となるムーシデスの友への献身は表面的なもので、実際には彼がカロースを毒殺し、その結果超自然的な報復を受けたことが明らかである。ラヴクラフト自身も「ダゴン弁護論」でこの解釈を支持している。

一般に「ダンセイニ風」と考えられているこの作品だが、ラヴクラフトはその着想をロード・ダンセイニの作品を読む1年前の1918年までに得ていた。アルフレッド・ギャルピンへの手紙で物語の粗筋を説明し、長年構想を温めていたと述べている。ギャルピンの作品に「生ける樹木」というアイデアを先取りされたと考え、執筆を延期したという経緯がある。

初期の構想では古代ギリシアが舞台とは明示されていなかったが、完成版ではラヴクラフトのギリシア史と文学の知識が巧みに活用されている。登場人物の名前(カロースとムーシデス)は文法的に正しいギリシア語であり、テュケー教団への言及など、細部まで歴史的な正確さが追求されている。

物語の背景は紀元前353年から344年の間、シュラークーサエの僭主がディオニューシオス2世であった時代と推定される。

  • カロース
  • ムーシデス
  • シュラークーサエの僭主

【舞台】

  • アルカディアのマエナルス山

シュラークーサエの僭主が下した命。二人の卓越した彫刻家、カロースとムーシデスに課せられたテュケー像の競作。

親友同士でありながら、その生き方は対照的だった。ムーシデスは都会の喧騒と歓楽に身を委ね、カロースは森の静寂の中で孤独な夢想に耽る。

制作が始まり、二人の手から芸術が生まれていく。しかし、カロースの身に異変が起きる。徐々に蝕まれていく健康。ムーシデスの献身的な看病も空しく、カロースは息を引き取る。

競争相手を失ったムーシデス。勝利は彼のものとなったはずだった。

だが、芸術の真髄とは何か。勝利の果てに待っていたものとは—。

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