この作品は2,500語の短編で、1919年12月後半に執筆された。初出は Vagrant 誌(1920年5月号)で、Weird Tales 誌(1925年2月号と1937年8月号)に再掲載された。単行本では O に初収録され、校訂版は MM、詳註版は CC に収められている。
ラヴクラフトはこれが彼の見た夢をほぼそのまま忠実に書き写したものだとしている。この夢は1919年12月初めに見たもので、彼とサミュエル・ラヴマンが古い墓場を訪れ、ラヴマンが一人で墓に入った後に恐ろしい神秘的な運命を辿るという内容だった。「ギャラモ」宛ての書簡(1919年12月11日付)に描かれた夢の話は、言葉遣いや筋書きの点でこの物語と非常に類似している。
物語と夢には興味深い相違点がいくつかある。夢ではニューイングランドが舞台だったが、物語では明確にされていない。ビッグ・サイプレス沼とゲインズウィル道路への言及は、フロリダのゲインズウィルを想起させる。また、物語では腐らない死体という要素が加えられている。
ランドルフ・カーターという名前にも注目すべき点がある。ラヴクラフトはこの名前をロードアイランド州の古い家系から着想を得たが、同時にバージニアからの移住者であることも意識していた。カーターは彼の作品に最もよく登場するキャラクターの一人となった。
ウォーランの書庫にあった本を「ネクロノミコン」と考える解釈もあるが、カーターの証言から、これは別の本である可能性が高い。カーターは、この本が彼の知らない文字で書かれており、インドから届いたものだと述べている。ラヴクラフトの後の設定では、「ネクロノミコン」はアラビア語、ギリシア語、ラテン語、英語でしか存在しないとされている。
- ランドルフ・カーター
- ハーリィ・ウォーラン…友人のサミュエル・ラヴマンがモデル
- 食屍鬼
【舞台】
- 1926年前 フロリダ州北部アラチュア郡ゲインズビル通り ビッグ・サイプレス湿地
ランドルフ・カーターが警察に語る証言は、想像を絶する恐怖の夜の記録だった。
博学な神秘家ハーリィ・ウォーランが古い本で見つけた謎。「なぜ特定の死体は千年もの間、腐敗せずに眠り続けるのか?」その答えを求め、二人は禁断の探索へと乗り出す。
ビッグ・サイプレス沼の奥深く、忘れ去られた古い墓場。そこで彼らが見つけたのは、単なる墓ではなく、地下へと続く階段だった。
ウォーランは単身、その暗闇へと足を踏み入れる。カーターとの唯一の繋がりは、長いコードの先の電話。その向こうから聞こえてくる、ウォーランの息遣いと足音。
しかし、やがてその音は、想像もつかない何かに取って代わられる。
地下の闇に潜む千年の秘密。腐敗しない死体の真相。そして、人知を超えた存在との遭遇。
カーターの証言は、現実と非現実の境界線を曖昧にし、底知れぬ恐怖の淵へと誘う。
果たして、ウォーランの運命は――。