白い船

白い船

The White Ship

ハワード・フィリップ・ラヴクラフト 全集6 新訳4
概要
登場人物
あらすじ

本作は2,550語の短編で、1919年10月頃の執筆と推測される。初出は United Amateur 誌(1919年11月号)で、後に Weird Tales 誌(1927年3月号)に再掲載された。単行本では BWS に初収録され、校訂版は D、註釈版は TD に収められている。

物語の筋立ては明らかにロード・ダンセイニの『ヤン川を下る長閑な日々』(『夢見る人の物語』1910年所収)を基にしているが、類似点は筋立てだけである。ダンセイニの物語が夢幻的な船旅と次々と現れる不思議な土地を描くのみで、それらに哲学的な内容はなく、空想的な美を喚起するだけなのに対し、ラヴクラフトの物語には寓意的あるいは象徴的な解釈が込められている。

この作品はラヴクラフトの哲学的思考の主要な信条、特にソナ=ニルの地に象徴される安寧(苦痛の不在として解釈される)というエピキュロス的な結末を放棄することの愚かさを表現している。主人公バザル・エルトンがそれを投げ捨てることで、自身に正当な破滅―死ではなく、むしろ悲しみと不満―をもたらす。

物語が初めて発表された後、United Amateur Press Association の一般批評部議長だったアルフレッド・ギャルピンがこの作品を好意的に評価した。

  • バズル・エルトン…キングス・ポートにある灯台守
  • 白い船の船長

【舞台】

  • キングス・ポート
  • ドリームランド ソナ=ニル、ザール、タラリオン、クスラ、カトゥリア

灯台守バザル・エルトンの日常は、月光が海面に描く幻想的な橋によって一変する。その橋を渡り、南方からやってきた白い帆船に乗り込んだ彼の前に、髭を蓄えた老船長の姿。この出会いが、エルトンを現実世界の束縛から解き放つ。

彼らの航海は、人間の想像を超えた幻想的な世界へと続く。忘れ去られた美の夢が宿るザルの地。人類が追い求める神秘のすべてが息づくタラリオン。歓楽さえも届かぬズーラ。そして遂に、時間も空間も、死も苦しみも存在しないという究極の楽園、ソナ=ニルにたどり着く。

エルトンはこの至福の地で、永遠とも思える時を過ごす。しかし、彼の心に芽生えた新たな渇望が、この完璧な幸福に亀裂を入れ始める。西の玄武岩の柱の彼方にあるという、カトゥリアの地。ソナ=ニルをも凌ぐと噂される、さらなる理想郷への憧れ。

満ち足りた永遠の中で芽生えたこの欲望は、エルトンをどこへ導くのか。彼が追い求める究極の理想郷とは何なのか。そして、この果てしない探求の旅の結末は―。

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