本作は17,950語の中編小説で、1928年秋に執筆された。初出は1929年WTの4月号で、単行本初収録はO。校訂版がDHに、詳註版がAn1とTDに収録されている。
本作には複数の文学的影響源がある。怪物と人間女性との交わりという中心的なテーマは、アーサー・マッケンの『パンの大神』に由来しており、ラヴクラフトはこれを作中で明言されている。また、見えない怪物が足跡だけで存在がわかるという要素は、アルジャーノン・ブラックウッドの『ウェンディゴ』に触発されたものである。他にも、不可視の怪物や双子という設定などは、モーパッサンやフィッツ=ジェイムズ・オブライエン、アンブローズ・ビアースなどの先行作品も影響を与えており、ラヴクラフトはこれらを参考にして自身の作品を構築した。
ラヴクラフトはダンウィッチの舞台をウィルブラハムを認めており、この町で過ごした8日間が物語に反映されている。しかし、物語中でダンウィッチがマサチューセッツ州の中北部にあるとされているのは興味深い点である。「熊の巣」などの場所は、実際にはアソールの近くにあり、ラヴクラフトがその風景を伯母に手紙で描写している。また、「センティネル丘」の名前もアソールの土地から取られている。
ラヴクラフトはダーレスとの書簡の中で、自身を脅威に立ち向かった老学者の精神と同一視していたと述べていたが、アーミティッジのモデルは『チャールズ・デクスター・ウォード事件』のマライナス・ビクナル・ウィリットである。
- アバイジャ・ホードリイ…1747年の人 ダンウィッチで起こる丘の異音を予言していた
- ポカムタック族…ダンウィッチの舞台がウィルブラハムであることの匂わせ
- ウィルバー・ウェイトリイ
- ラヴィニア・ウェイトリー…アルビノで奇形
- 老ウェイトリー…ラヴィニアの父
- 老ゼカライア・ウェイトリイ
- マミー・ビショップ…アール・ソーヤーの内縁の妻
- カーティス…ゼカライアの息子、老ウェイトリーに牛を売っていた人
- サイラス・ビショップ…ラヴィニアが息子を連れて丘に行くのを見た人
- おどけ者の魚売り…ラヴィニア家の2階にあがりドアの前で異音を聞いた人
- ヘンリー・アーミティッジ…司書 三人のうちの一人
- ウォーレン・ライス教授…三人のうちの一人
- フランシス・モーガン博士…三人のうちの一人
- ルーサー・ブラウン…ウェイトリーの兄弟が家から出ているのを最初に発見した人
- セス・ビショップ…ウェイトリー家に一番近い人
- サリー・ソーヤー…セスの家政婦
- チャンシー…セスの息子
- 老ゼブロン・ウェイトリー
- エラム・ハッチンス…ウィルバーに犬を殺された人
- ハートウェル医師…アーミティッジの担当医
- サム・ハッチンス、フレッド・ファー
- ゼブ・ウェイトリー
- カーティス・ウェイトリー
【舞台】
- 1923〜1928年 ダンウィッチ
薄暗い丘陵地帯に佇むダンウィッチ。この忘れられた土地で、ウェイトリイ家を中心に繰り広げられる異様な出来事の数々。1913年、白化症の女性ラヴィニア・ウェイトリーが産んだ父親不明の子、ウィルバー。その誕生は、この地に潜む得体の知れない力の目覚めを告げる序曲だった。
老ウェイトリーの不吉な予言。「ウィルバーはいずれ父の名を呼ぶことになる」。その言葉の裏に潜む、戦慄すべき真実。
常識を超えた速度で成長するウィルバー。その姿は人間離れし、見る者の心に底知れぬ恐怖を植え付ける。彼の目的は、禁断の書「ネクロノミコン」の解読。
しかし、その行為は悲劇的な結末を迎える。
図書館での「ネクロノミコン」入手の試みは失敗に終わり、ウィルバーは番犬に襲われて命を落とす。
その死体は、人間らしい特徴をほとんど失った、言葉では表現できないほど恐ろしい姿だった。この発見は、ウィルバーの真の正体に関する衝撃的な事実を明らかにする。
しかし、これは恐怖の始まりに過ぎなかった。
ウィルバーの死後、ダンウィッチを覆う不可解な現象の数々。目に見えない脅威が、この地を蝕んでいく。ウェイトリイ家の隠された秘密、ウィルバーの真の正体、そして彼らが呼び覚まそうとしていた存在。これらの謎が解き明かされるとき、人知を超えた恐怖の実体が姿を現す。