本作は12,100語の短編小説で、1921年10月初めから1922年6月中旬にかけて執筆された。初出は『Grewsome Tales』という題で Home Brew 誌(1922年2月から7月まで)に連載され、後に Weird Tales 誌(1942年3月から1943年11月まで)に再び掲載された。単行本初収録は BWS、校訂版は D、詳註版は An2 巻および CC に収められている。
『死者蘇生者ハーバート・ウェスト』は、ラヴクラフトの仲間作家であるジョージ・ジュリアン・ハウテインから、彼のユーモア系商業誌 Home Brew の創刊号のために依頼されたものである。そのため、この物語が自作品や超自然的恐怖小説全般のパロディとなっている(または執筆中にそうなっていった)可能性は否定できない。ラヴクラフトは「露骨に非芸術的な」連載物を書くことへの不満を漏らしていたが、この仕事自体は楽しんでいたように見受けられる。報酬の支払いについては議論があるが、書簡によって全額受け取ったことが確認されている。
この物語は『フランケンシュタイン』の影響を受けているとよく言われるが、ウェストの蘇生法は死後間もない遺体に限定されており、フランケンシュタイン博士のものとは大きく異なる。物語の中心テーマは、怪奇小説の基本的な概念と言えるかもしれない。
ミスカトニックという名称は以前の作品にも登場するが、「ミスカトニック大学」という表現が初めて使われたのは本作である。全6章中5章がニューイングランドを舞台としている。第3章の舞台ボルトンは実在の町だが、作中の描写とは異なる性質を持つ。このことから、ラヴクラフトがこの町の実在を知らずに使用した可能性が指摘されている。
第1章に登場する農場は、プロヴィデンスにあった実在の建物を示唆していると考えられ、その建物も1920年2月に火事で失われている。
- 語り手…作中では無名、後の映画でダニエル・ケインとされた
- ハーバート・ウェスト
- アラン・ホールシー医師…医学部学部長
- バック・ロビンスン…実験に使われた黒人ボクサー
- ロバート・レヴェット…心臓発作で死んだ人
- エリック・モーランド・クラパム゠リー少佐…戦死
- ロナルド・ヒル中尉…少佐と共に戦死
【舞台】
- 1915年前後 アーカム
医学の境界を超えようとする一人の天才医師、ハーバート・ウェスト。彼の壮大な野望は、死者の蘇生。この禁断の実験の数々を、親友である語り手の目を通して追体験する、背筋も凍る物語。
ミスカトニック大学医学部で芽生えた、ウェストの奇抜な理論。生命を機械的なものと捉え、適切な化学処理で死者を蘇らせる可能性を追求する彼の姿は、狂気と天才の境界線上にある。
全6章にわたる彼らの実験は、倫理の限界を超えていく。無縁墓地での密かな実験、反対者だった学部長の蘇生と引き起こされた騒動、人種の壁を越えようとした実験の予想外の結末。そして、戦場という極限状況での更なる挑戦。
しかし、死者を蘇らせることの危険性と倫理的問題は、徐々に二人を追い詰めていく。ウェストの偏執的な探求は、彼らの予想をはるかに超える結果をもたらし始める。
第一次世界大戦後、ボストンに身を置く二人の医師。ウェストのこれまでの実験が招く、想像を絶する結末とは―?