本作は5,430語の短編小説で、1920年7月15日から同年11月初旬の間に執筆されたと推測される。初出はWeird Tales誌1925年9月号で、同誌1936年2月号に再掲された。単行本初収録はO、校訂版はD、脚注版はTDに収録されている。
この作品は、ラヴクラフトの物語の中で初めてアマチュア誌ではなく商業誌に掲載された。その理由は主に作品の長さにあると考えられる。大半のアマチュア誌では、これほどの長さの物語を掲載する余裕がなかったためだ。
『ダゴン』と同様に第一次世界大戦を明確な舞台背景としているが、主人公の軍人気質や愛国的感傷に対する露骨な皮肉によって、ラヴクラフトは物語の調和を崩している。また、超常現象が過剰に描かれ、多数の奇怪な出来事が一つの結論に収束せずに散在している。
しかし、本作は『ダゴン』と同様に、人類以前の高度な文明の存在を強く示唆している点で注目に値する。この文明は、人類の知的・美的達成の多くを凌駕していると思われる。ラヴクラフトは書簡の中で「アルトベルク=エーレンシュタイン伯が目にした炎は、数千年以上も前の精霊が点した鬼火です」と述べている。さらに彼自身は全く信じていなかったアトランティス神話の起源となった、太古の情報源について考察を展開している。
- カール・ハインリヒ…少尉
- クレンツェ中尉…最後発狂した人
- シュミットとツィマーとミュラーとボームとラーベとシュナイダーとトラウべ…死亡
【舞台】
- 1917年
第一次世界大戦の混沌の中、ドイツ海軍の誇る最新鋭潜水艦が、英国貨物船との運命の邂逅を果たす。指揮を執るのは、プロイセン貴族の血を引くカール・ハインリッヒ。彼の冷徹な判断で、敵船は海底へと葬られた。
だが、勝利の余韻も束の間。潜水艦の手すりに、不気味にも敵船の乗組員の死体が絡みつく。その遺品から発見された「月桂冠をいただく若者の頭部」の象牙細工。この奇怪な品が、悪夢の始まりを告げる。
次第に艦内は狂気に蝕まれていく。悪夢に苛まれる水兵たち。舷窓越しに見える幽霊のような死体。呪いを恐れ正気を失う者も現れ、艦内は混沌の渦に呑み込まれていく。
伯爵の鉄の規律も、もはや効力を失う。機関室での爆発、艦内での暴動。次々と不幸が襲いかかる中、伯爵の取った行動は…。
海底に沈みゆく潜水艦が辿り着く、驚愕の真実とは――?